義翼の職人

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 土に汚れて本来は、純白な肌は灰色に薄汚れているがそれでも5本の指は揃っており、関節も動く。目も見えているし、音も聞こえる。試しに声を出せばしっかりと出る。全身は傷だらけだ。剥き出しの胸と腹、腕にも足にも無数の裂傷が走っている。傷というものを初めて見た彼は小さくショックを受けると同時にこんな物が痛みの原因なのなのかと恐ろしさを感じた。  背中に違和感がある。  いや、正確にはいつも背中にあるはずの感覚が無くなっている。  左側だけが重く、傾き、右側が軽い、と、言うか何も感じない。  まるでそこに何もないかのように。  彼の表情が青ざめる。そして恐る恐る首を動かして自分の背中を見た。  彼の絶叫が大地と空に響き渡る。  彼の背中の左側から土埃に汚れた翼が生えていた。力強く、大きく、そしめ滑らかな美しい曲線を持った美しい翼が。土に汚れてさえいなければ、それは純白であったことであろう。しかし、それに対なす右側の背中には何もなかった。ぽっかりと空いたウロの穴のような痣があるだけだ。空虚なその背中には確かに何かあった気配も痕跡も感覚もあるのに今は何もない。  彼は、嘆いた。  彼は、絶望した。
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