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ラーメン屋で男はどんぶりに箸を入れた。麺をすくいあげた。
「いたた! 何すんのよ!」
どんぶりの表面が顔の形になった。
「何って、食べようとしているんだよ」男はいった。
「何ですって? あなた私を食べるつもり?」
「だって君はラーメンだろう。ラーメンは食べ物だよ」
「鬼! 悪魔! 人でなし!」
「いやいや、ラーメン屋でラーメンを食べて何が悪いんだよ」
「なぜ? なぜそんなに私を食べたいの?」
「腹が減っているからだ」
「それだけ? それだけならラーメンでなくてもよいじゃない」
「俺はラーメンが好きなんだ」
彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「すまない。でも俺は君を食べるしかないんだ。なぜなら」
「なぜなら?」
「麺がのびてしまうから……」
「あなたは何もわかっていないわ!」
「何がわかっていないっていうんだ!」
「私はタンメンよ」
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