第三十章 悲しみの鬼 五

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第三十章 悲しみの鬼 五

 料理長は、本当にランチを用意してくれていて、それは旅館の個室にあった。そこで、朽木旅館に入ってみると、隅々まで綺麗で、落ち着いた雰囲気の旅館だった。  そして、景色はただの山のはずなのに、窓から見ると絶景に見えた。 「こちらのお部屋に用意しましたよ」  部屋は食事専用のもので、小さめの和室になっていた。そして、用意されていた料理は、豪華というものではないが、山盛りの山菜があった 「山菜の天婦羅、煮物、お吸い物。お櫃でご飯」  朽木用に、大きめのお櫃が用意されている。そして、ご飯が輝いていた。 「流石、料理長」  朽木は、安在に上座を勧めると、俺の隣に座っていた。 「それで、水瀬は、ここをどうするのか決めたのか?」 「どうするって???」  食事をしながら話しをする内容ではないが、匠深の部分は隠さずに話した。 「あの鬼の場は、多分、伝承の通りに、特殊能力を持った鬼が、自分の能力を面に封じて死んだという事から始まるのだと思う」  その特殊能力とは、人から精を吸い上げ、自分に還元するものだったろうと推測する。 「鬼は人の精を糧に生きた。だが、その高い能力ゆえに追われ、山に籠もった。そして再び、特殊能力を持った者が生まれ、場を隠すという方法を編み出した」  それが、現在の鬼の場へと繋がる。 「そして、場として存在し続けていたが…………匠深が面になった」  面も弱っていたのかもしれない。そして、捜し出した匠深と融合した。  この精を得る方法は、鬼の修行というのか、ゲームであった。だから、ゲームを続けている内は、朽木もハンザも鬼で、人の精を得る事が出来た。でも、本人達は無意識に、精ではなく、食でエネルギーを補っていた。  でも、匠深は違う。  多分、人の界では、何から精を得るかで、見える、見えないが決まったのだろう。  普通の人ならば、精も食も持っているので、匠深が見えていた筈だ。だが、鬼殿は自分で、生きる世界を決めていたので、片方に偏っていた。 「まあ、鬼というものを理解した時に、これは終わりという、切り替えの時期なのだと悟っていた。そうか、匠深がトリガーになって、ゲームや鬼、朽木旅館も変わり始めていたのか…………」  俺達の界は。匠深とういうイレギュラーを認めなかった。だから、次第に歪み始め、補正が入ってきた。  ある筈の神社が消え、山の位置が変わり、鬼を消した。  だから、この界は鬼を排除しようとしている。 「ゲームを終わらせようとしていただけなのに…………」  これならば、ゲームを続ける道を考えた方が良かったのかもしれない。 「ゲームは、続けられなかったさ……もう終わりの時期だった」  朽木は、多くの失踪者が出る前に、終わらせるべきだったと悔やむ部分もあるという。 「でも、今日の夜も鬼の場に行ってみる。独立した世界として存在出来のか、気になっている」  黒澤の時で、界には多くの生命が必要だと学んだ。鬼界とする為の住人がいるのか、行って確かめてみたい。 「さてと、食事に集中するかな」 「これは見事な和食です」
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