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子供までもが、金太郎をじっと見つめて、頬を染めていた。それは恋慕というよりも、尊敬の眼差しにも近い。
「この洞窟に近付いても、普通にしている連中も珍しいからな…………」
そして洞窟の中に入ると、空気が変わった。
「これは何だ?」
「だから、説明するよりも、見た方が早い」
見るというよりも、体感のほうが分かるという事だろう。
ここは空気が冷たく、絡みつくようにねっとりとしている。そして、呼吸するほどに、エネルギーが満ちてゆく感じがする。
「食べていないのに、満腹になった感じだ」
「…………大丈夫そうだな……」
俺は食べる事が好きなので、こういう食事はしたくない。
「この洞窟は奥に行くほど、精が濃密になる。だから、雄の中でも、成人して、それなりの経験を積んだ者しか入れない。経験が浅いと、鼻血を出してぶっ倒れる」
「俺達は平気ですけど」
むしろ、ここは竜界にも似ていて、居心地が良い。
「…………まあ、人ではないからな」
ただの人だった場合は、洞窟の入口付近で、倒れてしまうらしい。
「あ、水音だ」
神社の奥からも洞窟に繋がっていて、行き来が可能になっているらしい。それに、神社の内部に、この濃厚な精を取り込んでいた。そして、洞窟の中には湧き水が流れているという。
「この湧き水が、ここでの唯一の川だ」
鬼達はその湧き水で体を洗い、洗濯もしているらしい。
「あ、服が干してある」
「陰干しか?あれ、匠深の服か、これ?」
匠深は精の塊なので、神社の境内から外には出さないようにしているらしい。だから、ここで体を洗い、洗濯もしているようだ。
「先生は、金太郎と住んでいますよね?」
「匠深が特別」
そして、建物を通り過ぎ、湧き水に近付いてゆくにつれ、周辺が暗くなってきた。しかし、暗いと思ったのは一瞬で、金太郎の付近から光の粒が飛び出し、周囲を照らしてくれた。
「これが、この場の太陽の秘密なのですね」
場を区切っているのも、このせいなのかもしれない。金太郎の光も、無限ではないのだろう。
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