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「うぐゆあああああ、もっと!!!もっと、奥!!!!!」
「うおおお!!」
それは正気の表情ではなく、狂気にも満ちていた。そして、獣のような咆哮だった。
俺が正視出来ずに横を向くと、遅れてやってきた月森と安在が、滝を観察していた。
「あらら、真っ最中だね…………ここの濃密な精は、鬼が取り込んでから体内に放出される。それを人が内蔵から取り込み、再び鬼に返す」
「ここも、食事の場という事か…………それで、あれが食事でもある」
人は、内臓が取り込みの場という思い込みが強い。だから、精も内臓に入れないと取り込めない。そして、これが精であるので、性交しないと取り込めないと思ってしまうのだ。
それは長い人の歴史の中でDNAに刻まれてしまった事で、俺にはどうする事もできない。
竜は単純に、皮膚からでも、口からでも精を取り込む事ができる。それに、この空間といった、体から離れた意識でも、取込みは可能だ。竜は、界が胃袋になっているといった感じだ。
「そうか、あの滝つぼのあたりに、鬼の気配を感じる。そこで、匠深が鬼と抱き合っているのか?」
そして、静かだった朽木は、やっと状況を理解したらしい。
しかし、朽木は何故平気なのであろう。
「朽木は…………鬼殿だから、平気なのか?」
「朽木達というのか、こいつらは、食から精を取り込む事が出来る。つまりは、ここの精を食って取り込める」
そして、俺は無意識に周囲の精を取り込んでいたので、朽木でも平気な場になっていたらしい。
「それに、竜どもが精を食い散らかしているので、今日は精が薄くなった」
「そうか、一年分のエネルギーを貯めた感じがしていた」
そこで、立哉も満腹になっていると腹を叩いていた。
「俺もだ!」
一年どころか、十年分の食事をしてしまった気分だ。
「…………こんなに食べてしまって、鬼の分はあるのか?」
「大丈夫だ」
ここで、重要な事は、この奥の間で精を吸収すると、鬼の場の精の循環が良くなるという事だった。だから、強い鬼が来た時は、匠深はこの滝壺で抱き合う仕組みになっている。
「この精、人のものだけではないな…………」
「獣のものも混じっているのか?」
そういう違いではなく、別の界の精も混じっている感じがする。
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