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第三十ニ章 Hide and seek 二
金太郎に森を案内して貰おうと思っていたが、飛んでみると、森よりも畑の方が広いと分かった。鬼の場は広大な農地を所有していて、森はほんの一部に過ぎない。
その一部しかない森に、鬼の雄が住んでいる。
雄が虐げられているのではなく、これが鬼の界の仕組みでもあった。
雌もきっと、この仕組みの中で、雄が精を汲み上げるポンプのような存在だと理解している。だから、雌は雄と離れて自由にさせているのだ。
「金太郎の所に行きますか?」
「いや、分かったからいいや」
出来る事ならば、この土地で人も長生きできる仕組みを造りたかった。しかし、それは俺の役目ではない。
「元の世界に戻ろう」
「そうですね」
何度かやって来て分かったが、鳥居を潜れば元の世界に戻れる。そして、もう一度、鬼の場を一周すると、俺達は元の世界に戻った。
鬼の場から、朽木旅館の車庫に戻ると、二階の狭い和室に集まってしまった。
「隠れ鬼とは、鬼が伴侶を連れ込む為に始めたゲームだ」
伴侶を連れ込むというのか、人を誘い込む為のゲームに近かった。
「鬼の場を切り離す前に、まず、街に出現する場を封じる必要がある」
鬼の場というのは、この界に繋がっているので、その接続を弱くしたほうがいい。それには、まず、街に出現する場を封じたほうがいい。
「意図して出現させられないけれど、そんな場を封じられるわけか?」
朽木は旅館からご飯を貰ってくると、巨大なおにぎりにして食べていた。そこで、俺もふりかけを持ってくると、おにぎりを作った。
「界には補正というものがあって……まあ、うまく界が回るようになっている。今回は、その補正を使用する」
俺も悩まされている補正だが、使い方によっては、強力な封じになる。
まず、界に場が二重になっている事を分からせ、それが異常事態なのだと認知させる。その上で、片方が鬼の場で、不要なものだと分からせればいい。
「今まで、補正が掛からなかったのに?」
「だから、今回は逆にしてみようかと思う。俺が逃げる、鬼殿が捕まえる」
それでは、場が出現しないかもしれないと、朽木が考え込んでいるが、俺は場が出現すると確信している。
きっと、鬼の場は竜王を欲して、本気で捕まえにくる。
「朝まで逃げ切る」
「鬼殿から逃げられるか?」
簡単に逃げ切れるとは思えないので、立哉も俺の仲間という事にしておこう。
「まあ、どうにかする」
要は、消えて空中に飛んでいればいい。
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