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「廊下?」
「車の中もいいかと思ったけど……平らな所で眠りたい感じがした」
廊下は床で、窓も付いていた。踏まれる危険性はあるが、寝心地は悪くない。
「立哉がいれば、俺はどこでも快適だし……」
「あれ、仲直りしたのか?」
寝袋を奪おうとしていた安在が、立哉が満足そうに俺を乗せていたので、溜息を付いて手を止めた。
「まあ、立哉がいると、車の中は辛いですからね。それに、廊下は長さもあるので、立哉も伸びていられる」
だが、朽木は不満そうに、俺の横で寝袋に入った。
「朽木は、実家で眠れば?」
「俺の部屋は、もう無い」
でも、客室はあるだろう。それに、居間の横に、和室もあると聞いた。
「ここでいい!」
「そうですか……」
では、既に深夜なので、眠っておきたい。
俺が立哉の上で寝袋に入ると、朽木の腕が伸びてきて、俺の頬に触れていた。
「…………水瀬。俺は、匠深が選んだ生き方を尊重する」
結果として、匠深が鬼の場に行ってしまうのかもしれないが、必死に生き方を考えたのだと考え、否定しないという。
「そうか」
否定されると辛いので、匠深も安心して行けるだろう。
むしろ問題は、幸助の嫁のリコかもしれない。
リコの実家は鬼の場にあるので、二度と母親や弟に会えなくなってしまう。
「…………リコさんは…………」
「人に見えるようにして貰った時に…………生きる場所は決めたのだと言っていた」
恋をした女性は、悲しく強い。愛する幸助の為に、リコは選択したのだろう。
「…………そうか」
先生や、鬼の場に行った他の人は、もう人の界へは戻って来られない。
「朽木は…………」
「俺は、水瀬の傍にいる」
朽木は法学部の学生で、将来は検察か、地検に入るのだという。それは、手堅い公務員で、俺を食わしてゆくと言っていた。
「…………俺は千年生きる」
「千年も、食わしてゆかないといけないのか……………………貯蓄しよう……」
どうも、朽木も千年を生きるつもりらしい。
「鬼も長生きだよ……」
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