第三十ニ章 Hide and seek 二

3/9
56人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「廊下?」 「車の中もいいかと思ったけど……平らな所で眠りたい感じがした」  廊下は床で、窓も付いていた。踏まれる危険性はあるが、寝心地は悪くない。 「立哉がいれば、俺はどこでも快適だし……」 「あれ、仲直りしたのか?」  寝袋を奪おうとしていた安在が、立哉が満足そうに俺を乗せていたので、溜息を付いて手を止めた。 「まあ、立哉がいると、車の中は辛いですからね。それに、廊下は長さもあるので、立哉も伸びていられる」  だが、朽木は不満そうに、俺の横で寝袋に入った。 「朽木は、実家で眠れば?」 「俺の部屋は、もう無い」  でも、客室はあるだろう。それに、居間の横に、和室もあると聞いた。 「ここでいい!」 「そうですか……」  では、既に深夜なので、眠っておきたい。  俺が立哉の上で寝袋に入ると、朽木の腕が伸びてきて、俺の頬に触れていた。 「…………水瀬。俺は、匠深が選んだ生き方を尊重する」  結果として、匠深が鬼の場に行ってしまうのかもしれないが、必死に生き方を考えたのだと考え、否定しないという。 「そうか」  否定されると辛いので、匠深も安心して行けるだろう。  むしろ問題は、幸助の嫁のリコかもしれない。  リコの実家は鬼の場にあるので、二度と母親や弟に会えなくなってしまう。 「…………リコさんは…………」 「人に見えるようにして貰った時に…………生きる場所は決めたのだと言っていた」  恋をした女性は、悲しく強い。愛する幸助の為に、リコは選択したのだろう。 「…………そうか」  先生や、鬼の場に行った他の人は、もう人の界へは戻って来られない。 「朽木は…………」 「俺は、水瀬の傍にいる」   朽木は法学部の学生で、将来は検察か、地検に入るのだという。それは、手堅い公務員で、俺を食わしてゆくと言っていた。 「…………俺は千年生きる」 「千年も、食わしてゆかないといけないのか……………………貯蓄しよう……」  どうも、朽木も千年を生きるつもりらしい。 「鬼も長生きだよ……」
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!