第三十ニ章 Hide and seek 二

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 でも、それは鬼の場にいた場合だろう。 「俺は男だから、食わして貰わなくても大丈夫」  そして、その鬼の場を、切り離そうとしているのだ。 「朽木、俺は、明日も運転するから、先に眠る。おやすみ」 「おやすみ」  でも、朽木が傍に居ると言ってくれて、安心している自分がいる。  出会ってからの時間は関係ない。  朽木は俺の一部のように、居る事が当たり前の存在になっていた。  そして、目覚めると物音がしていて、慌てて階下に行くと、安在が朝食を並べていた。 「すいません、急いで準備します」 「いいよ。旅館の厨房を借りてね、少し和食を覚えてきた。水瀬、味見を頼む」  料理長は鬼で、鬼の場に戻りたいらしい。そこで安在が、食べて味を記憶していた。  俺が安在の作った和食を味見してみると、驚くほどに料理長の味を再現していた。これは、安在が作ったと聞かなければ、料理長が作った食事だと思うだろう。 「美味しいです。でも、山菜の盛り付けは料理長ほうが綺麗だ」  でも味ではない部分で、違いが分かってしまった。  料理長が扱う、この土地の野菜や山菜は、見た目がとても綺麗なのだ。それは、山の美しさが凝縮されて皿に載ったような感じで、山を知らなければ出来ない盛り付けだった。 「そこか。俺も違和感があった。そうか、味に気を取られて、形を覚える事がおろそかになったか…………」  でも、安在ならば、形は写真でも覚えられそうだ。 「俺、写真を頼んでおきます!」  しかし、安在の料理は美味しい。俺が食べ続けていると、朽木に気付かれ、横に座られてしまった。そして、安在が持ってきたご飯を、朽木が全部食べてしまった。 「朽木…………遠慮するという気持ちは無いのか?」 「ありません」  そして、月森が起きてくる頃には、すっかり食べる物も無くなっていた。  俺が朽木を叱ろうとしていると、大女将の乃葉菜が、お膳を持ってやって来た。 「月森さん、おはようございます。やっぱり、朝もいい男!!かっこいい!!それに美しい!!!安在さんも素敵で、可愛い!!!」  乃葉菜は、朽木が料理を食べ尽くしている事を予測し、月森に食事を用意していた。 「水瀬君もおはよう。廊下で寝袋だったとか……大丈夫?風邪とかひいていない?」 「大丈夫です」  乃葉菜は大きな袋も持っていて、俺に差し出してきた。そこで、中身を確認すると、炊き込みご飯のおにぎりと、山菜の佃煮が入っていた。 「山菜の佃煮!!!大人気の一品!」 「持って帰って食べて」  佃煮は人気の品で、予約は常に一杯で割り込めず、旅館では売り切れてしまっている代物だ。
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