第三十ニ章 Hide and seek 二

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「それは、今と変わらない」 「…………そうです」  だが、だから寂しいと感じた事が無かったという。 「そして、親父は匠深が見えている。つまりは、鬼の場にしか存在出来ない人だ。こっちから見ると、存在が薄いというのか…………影が薄いというのか…………」 「そういうものか????」  でも、朽木の父親に会ってみたかった。 「俺は、親父と旅館でばったり会って、客だと思った事がある。前にも来た客かな、見憶えがあると思ったら、親父だった」 「それは影が薄いというのとは、かなり違うだろう」  だが幸助も、父親を客と間違えた事があるという。 「本当に、親父は家にいなかった。会話も少なかった」  それは、朽木の父親は、外で仕事をする事が多かったせいだ。どうも、家の外に事務所があり、そこで広告や予約、経理などもしていたらしい。 「家族なのだから、もっと話せば良かっただろう」 「そうだな…………」  山道を走り、国道に抜けると、山が遠のいていった。そして、高速道路に入る頃には、既に山の事など忘れてしまった。そして、佃煮の作り方を教えて貰えば良かったなどと考えていた。 「故郷は、過去になると…………楽しかった事ばかりです」 「帰れる過去があるというのは、いい事だよ」   車を走らせていると、途中で起きた安在が、運転を代わってくれた。すると、月森も助手席に移った。 「炊き込みご飯!」 「俺も食べます」  これは、料理長が作ったものだ。山菜の味が生きていて、それでいて優しい味がしている。 「鬼美味しい」  こんな優しい味を、俺も作ってみたい。  そして食事が終わると、俺は街の場を確認してしまった。 「朽木、隠れ鬼は、どの範囲でしていた?」 「範囲は街で、道路で区切っていましたよ」  そこで、朽木と街の地図を確認してみると、結構広い事が分かった。 「基本、駅から駅の間」 「広いな……………………」
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