56人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「それは、今と変わらない」
「…………そうです」
だが、だから寂しいと感じた事が無かったという。
「そして、親父は匠深が見えている。つまりは、鬼の場にしか存在出来ない人だ。こっちから見ると、存在が薄いというのか…………影が薄いというのか…………」
「そういうものか????」
でも、朽木の父親に会ってみたかった。
「俺は、親父と旅館でばったり会って、客だと思った事がある。前にも来た客かな、見憶えがあると思ったら、親父だった」
「それは影が薄いというのとは、かなり違うだろう」
だが幸助も、父親を客と間違えた事があるという。
「本当に、親父は家にいなかった。会話も少なかった」
それは、朽木の父親は、外で仕事をする事が多かったせいだ。どうも、家の外に事務所があり、そこで広告や予約、経理などもしていたらしい。
「家族なのだから、もっと話せば良かっただろう」
「そうだな…………」
山道を走り、国道に抜けると、山が遠のいていった。そして、高速道路に入る頃には、既に山の事など忘れてしまった。そして、佃煮の作り方を教えて貰えば良かったなどと考えていた。
「故郷は、過去になると…………楽しかった事ばかりです」
「帰れる過去があるというのは、いい事だよ」
車を走らせていると、途中で起きた安在が、運転を代わってくれた。すると、月森も助手席に移った。
「炊き込みご飯!」
「俺も食べます」
これは、料理長が作ったものだ。山菜の味が生きていて、それでいて優しい味がしている。
「鬼美味しい」
こんな優しい味を、俺も作ってみたい。
そして食事が終わると、俺は街の場を確認してしまった。
「朽木、隠れ鬼は、どの範囲でしていた?」
「範囲は街で、道路で区切っていましたよ」
そこで、朽木と街の地図を確認してみると、結構広い事が分かった。
「基本、駅から駅の間」
「広いな……………………」
最初のコメントを投稿しよう!