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気付けば、そこにあった花瓶を床へ叩き落としていた。
「きゃあ!!」
後ろの席の女子生徒が叫ぶ。
どうやら花瓶の破片が鞄に刺さったようだった。女子生徒はガタガタと肩を振るわせていて、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。その顔を滑稽だと思う半面、罪悪感に苛まれた。
耐えきれなくなった私は教室から飛び出す。幾分か走った後で息を整えようと足を止めたが…
運動が苦手な筈の私の体は不思議と息が切れなかった。さっきの感情が嘘のように心が落ち着く。少しの疲れも見せない体に酷く心が昂った。
…夢が叶った、叶ったんだ!
思い切って窓から飛び出す。一抹の不安を感じたが、私の体は下に落ちて行くことはなくふわりと宙を漂っていた。嘘のように軽い体でくるり、くるりと回って見せる。ふわりふわりとスカートが風に揺られる。パニエを履いているように膨らんで、少し魔法少女っぽい。頬を撫でるまだ少し冷たい風がくすぐったくて何故かおかしくて、思わず笑みがこぼれた。こんなに穏やかで爽やかな気持ちはいつぶりだろう。色んな思い出や考え事が一気に頭の中を駆け巡る。
はっとして、下に人がいてスカートの中身が見えてしまったらと考えて,スカートを押さえる。が、そもそも5階の高さをわざわざ見上げる人などそうそう居ないのだ。その事に気付いた私はホッと胸を撫で下ろした。それでもなんだか恥ずかしくなってきて、スカートを押さえたまま校舎の窓に駆け寄る。窓から廊下に降りようとしたが、足を引っ掛けて廊下に倒れ込んでしまった。いつもどこか抜けていて、何も無い所でも転ぶ私らしい降り方だった。そんな私の名前を聞きなれた声が呼ぶ。
「…雫?」
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