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声のした方向へ目を向けると,一人の生徒が立っている。肩につかない程度の猫っ毛に、一重の大きな目。涙ぼくろに長いまつ毛のよく似合う見慣れた顔。身につけているのはセーラー服ではなくジャージで、体育終わりを思わせる。
(…まだ授業中だよね)
相手は私の事を知っていたし、明らかに見覚えのある人物なのに思い出せない。じっと見つめ返して,ふんわりと笑顔を返される。
訳もわからずじっと見つめ返して、記憶を辿る。しゃがみこんで私の顔を覗き込む彼女を見て,ようやく誰かを理解できた。
「晃 あきら?」
近所に住む一つ下の女の子。記憶の中より幾分か身長が伸びていて、髪は少し短くなっている。
「…うん」
懐かしくすら感じる幼馴染に抱きつく。晃は少し驚いた様子だったが,暫く顔を合わせていなかった幼馴染の香りは何も変わっていなかった。
「変わってないね、雫は。」
囁くような声で晃が笑う。
私が大好きなその声に、顔が綻ぶ。
「聞いて、晃!私さっき空を飛べたんだよ」
いつものキョトンとした顔をした後に、また笑顔になって晃は私の頭を撫でた。
「ふふ、そっか。楽しかった?」
一ミリも信じていない態度に、少し意地になって立ち上がる。
「ほんとだよ?ほんと!今見せるから!」
晃もゆっくりと立ち上がって,私の隣に来た。
先程のように窓から外に出ようとするも,手がすり抜けて中々窓があかない。隣では晃がくすくすと笑っている。
ほんとに飛べたの?という顔で晃が私の顔を覗き込む。
「どうせ嘘だと思ってるんでしょ!」
頬をふくらませて見せると、今度は堪えきれないといった様子で笑い出した。
「なっ、なんで笑うの〜!!」
「あはは!やっぱり雫は可愛いなと思って…」
「じゃあ晃はやっぱり意地悪だね!昔から私の事からかってばっかり!」
腕を組んで胸を張って、怒りを体で表してみる。そんな事ないよだとか言ういつもお決まりの言葉を待っているのに、今は何もかえって来ない。おかしな間に思わず晃の顔を見た。
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