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現実的な夢。看護師?医者?レスキュー隊員?パン屋?私がなりそうなもの、ならならそうなもの全部をひっくるめて考え出す。
「…あ、警察官」
警察官。高校に入ってからの夢だった。厳しい事も分かっていたし、体力のない私に向いてないことは100も承知だ。でも、何故かなりたかった。
…なぜ?
「警察官?」
突然の声に驚いて情けない声が出そうになる。久しく聞いていなかった茅野さんの声だった。
「…絢愛先輩。」
晃はゆっくりと茅野さんに視線をうつす。
「……こんにちは。まだ授業中ですよね、どうかされたんですか?」
何事も無かったように、人懐っこい顔で茅野さんの手を晃が触れた。
「ただお手洗いに行くだけよ、それより…」
茅野さんは訝しげな顔をして尋ねる。
「その…誰かと話してたみたいだけど、どうしたの?それに、警察官って言ったのは……桜木さんなの?」
その発言に呆気に取られて口を挟もうとするが、私が口を開くより先に晃の声に遮られてしまった。
「あぁ…雫と話してたんです。相変わらず元気そうで!安心しました……」
そんな様子も見えてないかのように、本当に幸せそうな顔で晃が笑う。その顔は、話題に出されている私ですら異様だと思うほど歪だ。何か、おかしい。
「えっ、?ちょっと待って、春宮さんと?」
そんな晃とは対照的に、茅野さんは動揺が隠せないようだった。
「何言ってるんですか先輩、今だってそこに……あれ?」
そう言って晃がこちらを向く。でも、明らかに顔を合わせているのに目があわない。
「…晃?」
茅野さんの方へ向き直した晃が笑う。嫌な予感がして、視界がぐるぐると回る。
「…帰っちゃったかも」
鈍器で頭を殴られたような感覚を覚えた。その声色の重さに寒くもないのに体が震える。
(私、ここに居るのに。)
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