魔法少女……

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「そ、そう……どこに行く予定だったの?ついて行くわ。」 なんでもないような顔で笑う茅野さんの声は、明らかに震えていた。 「…保健室に。手首を捻ったので」  笑う晃の顔色がどんどん悪くなって行く。思い切って伸ばした手は、何にも触れる事ができない。晃の香りも、見慣れた筈のニ人が歩く光景も、何故か酷く不快だった。 「晃!!茅野さん!!」  声を荒げてみても、二人は気付かない。体の震えを誤魔化す様に、私は慌てて二人を追いかけた。でも、いくら走っても二人に追いつけなかった。先程は一切見えなかった疲れが全身を襲って、何故か足がひどく傷んだ。足がもつれて頭から後ろへ倒れる。地面に頭を強く打ち付けたが、痛む様子はない。そして先程から景色が変わっていない事に気付いた。自覚した瞬間急に全身が痛み出して、視界がかすむ。何度も何度も瞬きをすると、廊下の天井ではなく青空と校舎を見上げていて、私は地面に仰向けに寝転んでいた。割れるような頭の痛みに鼻が曲がりそうな程の鉄臭い香り。指先から感覚が消えていって、背中が強張る。耳元でドクドクと動悸が鳴っていて、耐えがたい苦痛に顔を歪めようとするが、どうにも力が入らない。まるで他人の体に無理矢理収められているような感覚になって、なんとも言えない不快感が全身に回る。嗚咽と共に漏れた生暖かいものが鉄臭い香りをまた広げる。一秒一秒が私を蝕むようで恐ろしい。記憶が一枚一枚剥がれ落ちて、私が保てなくなる。春宮雫は、何者?どれだけ必死に掴んでも、私の意識は遠のく。その時に、ジリジリと私の体を焼く太陽をほんの少しだけ塞ぐ影ができた。 「酷いよ雫、もう…気持ち悪い。」 見知った声、たいせつな。 「残念だわ、私、春宮さんのこと信頼していたのに。」 親友、親友、親友、親友、家族? 声が漏れる。喉が焼かれるような気がするほどの私の叫び声は、誰の耳にも届かなかった。
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