魔法少女……

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体が溶けている。正確には、足が。 保健室のベッドの上、私は動かせるかもわからない足を眺めながら聞き耳を立てていた。 狂いそうな程にまとわりついていた痛みはいつしか消えていて、枯れ落ちた花のように跡形もない。つい数秒前の事だったような気もするし、何ヶ月も前の事だった気もする。一つ分かるとすれば、とうに私は人間でなくなったと言う事だった。それなら、魔法少女のように人々を助けれるかも。淡い期待を抱いたが、私の手はなにも掴めなくなっていた。 目を閉じれば、何かに引き込まれて沈んでいく気がする。気を抜けば体が全て溶けていってしまう気がする。変わらず居心地の悪い体に不快感を覚えながら、静かに夏音に身を任せていた。 「すいません」 ガラガラと保健室の引き戸を開ける音がして、また茅野さんの声がする。先程の茅野さんの声が浮かんで、また気持ち悪くなった。 「あら、誰もいないみたいよ」 コツコツと良い足音が2人分、保健室に響く。…人の足音は好きだ。 「みたいですね…」 そう言いながらザッと、晃によってカーテンが開けられた。 「……絢愛先輩。」 今度はしっかり目が合う。思考の読めないその表情はやはり歪だ。 「私の話を信じますか?」 晃は私から目を逸らさない。私も、目を逸らさなかった。 「……どうかしら、内容次第…ね」 後ろで茅野さんがガサゴソと探し物をしながら返事をする。晃は恨めしそうに微笑んでから、嫌に感情のない声で言った。 「…やっと私達の元に雫が帰ってきたんですよ。」 物音が止んで、晃が振り向かされた。茅野さんと目が合った気がしたが、彼女がいっそう不快な表情になったのは私のせいだとは思いたくない。 「……休みましょう。」 ゆっくりとしめられたカーテンを見ることもせず、気分の悪さに布団にうずくまる。ずっとこうなのだろうか?私の体は休まらないのだろうか。 体なんてあるのだろうか。 ゆっくり、目を閉じる。 目を開けたらどこにいるのだろう、この布団の温もりは本物なんだろうか、目を開けたらいつものような日常に・・・━━━━━━━━━━
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