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皆で食卓を囲んでいる。今度は、家族との思い出に溢れた自宅だった。母と妹の折り合いは悪いが、十分に幸せな家庭と言えるだろう。
「今日もお父さんは飲み会?」
妹が食事を頬張りながら母に聞く。
「最近ずっとよ。よそに女でも出来たかしら。」
母親らしくない言動に思わず笑みがこぼれる。
「冗談やめてよお母さん!こんなにいい女が3人もいるのによそに女作るなんてありえないでしょ?」
あははは!
歪な笑い声が響く。頭が割れそうな程にいたんだが、気にしないことにしよう。
「でも、お母さんこんなだからほかの女になびかれたりもするかもね」
何も無かったような顔をして妹は母の傷を抉る。
母の手からカチャカチャと音が鳴って箸が落ちた。
「いい加減にしなさいよ!!!!」
母の叫び声がリビングに響いて耳が痛い。妹はそれでもヘラヘラしている。
「お姉ちゃんが居なくなったのに!!!あんたは誰と話してるの?!あんたがそんなんだからお父さんだってよそに女作って!!!私もおまえも置いていったんでしょう?!」
母の拳には力が込められていて、今にも殴りかかってきそうな雰囲気だった。
「お母さん、落ち着いて!」
席をたち声を荒らげて静止を試みるが、母には届かない。妹もまるでそんな様子の母が見えて居ないかのように、食事を頬張っていた。
「お姉ちゃん、コレ私嫌いだから食べてよ。」
そう言って笑った妹は、皿ひとつもない私の前に野菜を置いた。立ち尽くしたまま、私はその野菜を眺める。
「ねぇ……もういい加減にしてよ……」
母が泣き崩れても、妹は笑っている。
「お姉ちゃんなんかもう居ないんだってば!!!」
母の顔は涙でぐちゃぐちゃで、涙ひとつ出ない私とは対照的だった。
「何言ってるのお母さん、居ないって思うからいないんだよ?私の中でお姉ちゃんは居るの、いつもみたいにお母さんと私を叱ることもないし、私より出来損ないで私より可愛くなくて野菜も食べてくれて勉強も教えてくれるのにクラスの評判は悪くてそれで!もう比較もされなくて本当に嬉しい。でもお姉ちゃんが居ないと私家族なんて居なくなっちゃうから、作らなきゃ。お母さん、お父さんは今日も飲み会?」
既に食事のなくなった皿に箸を伸ばしながら妹は早口で語る。悪寒がした。泣き崩れながら、私たちの前ではいつも笑顔だった母が言う。
「……………帰ってきて……雫……」
どれだけ前の日の会話が繰り返されているのだろうかと考える。この申し訳なさも、行き場のないようなぐちゃぐちゃした感情も、涙には変わってくれなかった。
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