7話 代理殺人の理由

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7話 代理殺人の理由

 シアが涙ながらに語ったところによると彼女の祖母はカリーナの母の乳母だったらしい。  実家の男爵家が没落後そのカリーナはその伝手を利用した。  つまり彼女がこの屋敷で働くことが出来たのは既に勤めていたシアの紹介だからだ。  そのことを今更になって思い出したのかグレイグは蒼白になって私に平謝りをした。  カリーナはシアを密偵として巧みに利用していた。  屋敷内の人目のある場所では必要最低限しか会話をせず、自分の部屋に呼び出す時は業務を装っていたという。  カリーナは役職付きではなかったが個室が与えられていた。レイモンドの指示だった。  シアが彼女に命じられていたのは私たち夫婦の会話の盗聴と報告。  そして私の毒殺だった。 「お婆様が家に仕えていたからといって、どうしてそこまで?」  自分を殺そうとするなんて許せないという気持ちよりその疑問が勝って彼女に尋ねた。  例え命じたのがカリーナだとしてもシアが無罪になる訳ではない。  寧ろ実行犯としてカリーナよりも重罪になるだろう。  シアは暫く口ごもっていたが、過去に祖母がカリーナの祖父の愛人だったことを語った。  そのことを理由にシアはカリーナに従属を強いられていたのだという。 「……カリーナは毎日鏡を見ずに暮らしているのかしら」  確かに夫と使用人の痴情を許さない妻はいるだろう。  実際に罰するかは別にして罪だと認識している者は男女ともに多い。  だが少なくともカリーナはそれを責めて乳母の孫を脅す資格などない。  あるなら私は使用人に不義を働かれた側としてカリーナに自害を命じてもいい筈だ。  今までは鬱陶しく感じたり目障りだと憎みこそしても死んで欲しいとまでは願わなかった。  だが向こうが命を狙ってきたなら話は別だ。私はお腹の子の為に悪魔にもならなければいけない。 「カリーナを呼んで来なさい、そしてレイモンドも」  私は執事のグレイグに命じる。今の時間なら夫はいつも屋敷にいる。  この件について彼はどう動くのだろう。警察を呼ぶのか、それとも家名を汚さない為内密に処分するのか。  そう当事者から外れた使用人たちの目が下世話な好奇心に輝いている気がした。  しかしレイモンドはそのどちらも選ばなかった。いや、選べなかったのだ。  私の夫は愛人と一緒に冷たくなっていた。
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