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11話 夜の話
シアから殺人計画を打ち明けられたのは私がカリーナと対面した日の深夜だった。
一人で私の寝室の扉を叩いた彼女はその時点で死人のような顔色だった。
只事ではない様子を感じシアを部屋に迎え入れ話を聞いた。
そしてカリーナによる私の毒殺計画を知ったのだ。二人の関係を知ったのもその時だ。
祖母の不貞の贖罪ということでカリーナに便利に使われていたシアだが流石に殺人までは出来なかったらしい。当たり前の事だ。
シアは元々気が弱く、それも有って今までカリーナの頼みを断ることが出来なかったと泣きながら話した。
だから毒薬も押し付けられて受け取ってしまった。そう震えながら言う彼女から私は「それ」を受け取った。
小さな瓶に入った液体はカリーナの家に伝わる自殺薬らしい。決まった量を飲めば苦しむことなく眠るように死ねるとのことだ。
実際カリーナの母はこの薬をワインに溶かし服毒死したと聞いて私はぞっとした。没落し平民になるのが許せなかったという話だった。
私はカリーナが伯爵夫人の座に強く執着し求め続ける真の理由を初めて知った気がした。けれど大人しく死んであげるつもりはない。
何より腹の子まで一緒に殺そうとしたことが許せなかった。私はカリーナを陥れる為の策を練った。
今の時点でレイモンドにこのことを伝えても、無責任で楽天家な彼のことだ。きっと大した罪だと捉えないだろう。
そんなことを考えているとシアが、自分が告げ口をしたことをカリーナに知られたくないと言い出した。
正直呆れたがシアの怯えようは酷い物だった。もし殺人計画について告げ口をしたら家族を殺すと脅されていたらしい。
絶対に彼女はそうするとシアは断言して震え続けた。ここでシアを無下に扱えば再度カリーナに寝返るかもしれない。
否定すれば自棄になって今ここで私を殺そうとする可能性もゼロではない。臆病で小心な者こそ予想もつかないことをするのだ。私は思考する。
カリーナがもし警察に捕らえられたとしても、この段階の殺人未遂では死ぬまで獄中暮らしは難しいかもしれない。
何より警察まで情報が届くことなく伯爵家内で処理されてしまう可能性も大いにあるのだ。少しでも大きな騒ぎにしなければいけない。
私は空の香水瓶に毒薬を少しだけ移した。そしてそれを朝食のスープに入れるよう命じた。当然飲むつもりはない。
派手に怯えて私が受け取る前にスープ皿を取り落せばいい。そして私か、もしくは他の人物が床に触れようとしたら全力で止めるのだ。
当然周囲はその反応を訝しく思うだろう。そこで白状してしまえばいい。告げ口したと気づかれないまま計画は失敗になる筈だ。
計画に失敗したことでカリーナが制裁を加えないとも思えないがシアは目を輝かせて名案だと安堵した。
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