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5話 話にならない夫
カリーナを呼び出し夫が彼女との子を望んでいないことを告げた。
その後精神的に疲れた私は暫く寝室で休んでいた。
帰宅したレイモンドに今日の出来事を告げると気のない返事をされて苛立つ。
「本当なら貴男が彼女に話すべき事柄ですよ?」
「それは余りにもカリーナが哀れ過ぎるだろう、男からそんなことを言われるなんて」
妊娠中に夫の遊び相手と不快な話をさせられた私は哀れではないのか。
そう喉から出そうになった言葉を飲み込む。どうせレイモンドには伝わらない。
しかし夫はある意味私の予想以上の人間だった。
「それに君は今妊娠中だろう。どうしたって暫くは別の女が要る」
彼女とは体の相性がとてもいいんだ。
一瞬唖然とするが、レイモンドはいたって真面目な目をしていた。
自分は正しい主張をしていると信じて疑いもしない顔だ。
言っていることはわかる。理解したくもないが。
私の身に何もない時期でさえ女遊びが止まなかった彼だ。
そもそも私たちの間に愛などない。
だが、それでもあんまりではないだろうか。
泣き出したくなるのを唇を噛んで堪える。
「……せめてカリーナ以外の女性を。彼女は妾以上の立場を望んでいます」
「それが君の望みなら辛いけれど努力するよ」
「私を案じて下さるなら使用人に手を付けるのはお止めください」
いっそ高級娼婦を屋敷に招いてもいい。
私がそう告げるとレイモンドは困ったような顔をした。
「商売女が相手だと恋をしている感じにならないからなあ」
自分に夢中になってくれる姿こそが愛おしいのだと夫は続けた。
うんざりして吐き気がする。全く話にならない。
「……ならば貴男に心から惚れこんでいるカリーナを妻に迎えればどうですか」
思わず皮肉を吐き出すと夫はわざとらしい程に驚いた表情で大声を出した。
「彼女を伯爵夫人になんて、そんなこと出来るはずないよ!」
既に君という素晴らしい妻がいるのに。
そう言って抱き着いてこようとするのを「お腹の子に障る」と手で遮る。
素晴らしいではなく、都合のいいの間違いだろう。
カリーナが万が一私の立場になったとして夫の女遊びを許せるとは思えない。
私だって別に許したい訳でもないけれど。ただ受け入れるしかなかっただけだ。
もう彼とはこれ以上話をしたくない。疲れたから休むと告げて自室に戻る。
そして私は次の日、食事に毒を盛られた。
誰の仕業かは言うまでもない。
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