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8話 ごっこ遊びではなく
カリーナの死因は絞殺、そしてレイモンドは服毒自殺。
両者とも発見されたのは伯爵家当主の寝室だった。私の夫の部屋だ。
しかも仲良く同じベッドでだ。
第一発見者となった執事のグレイグの目には最初眠っているように見えたらしい。
何度呼びかけても反応がなく、徐々に二人との距離を縮めそうでないことに気づいたとのことだ。
私に対するシアの稚拙な毒殺未遂など吹き飛ぶような驚きだったに違いない。
それでも彼は執事で、サイドテーブルに置いてある遺書の存在を見逃さなかった。それが当主レイモンドの筆跡であることも。
警察ではなく旧当主に先に連絡を取るよう進言してきたのも彼だ。
遺書の本文に目を通すと私はその提案を受け入れた。
手紙の内容をそのまま信じるならカリーナを殺したのはレイモンドだった。
ただの愛人だった彼女だが徐々に自分を伯爵夫人に迎えるように言い出した。
更にアリーネに張り合うように子供を欲しがるようになり薄々恐怖を感じていた。
妻から諭してもらっても納得せず、仕方なく自分が深夜部屋に呼び内密に別れ話を切り出した。
すると妻と腹の子を殺すと言い出したので争いになりその中でカリーナの首を絞めて殺してしまった。
間違えて殺してしまった後で自分が心からカリーナを愛していたことに気づいた。
妻と子には申し訳ないが彼女の持っていた毒で後を追うことにする。
「……どう思う、この内容?」
私は薄く笑いながらグレイグに問いかける。彼は無言で、だが気の毒そうな目で私を見た。それが答えだった。
シアはカリーナの死亡を知った途端気を失ってしまった。本当に小心で臆病な娘だ。しかしそこが美点でもあった。
「カリーナの作戦が成功していたら、当主とその愛人と妻と子が一日でこの屋敷からいなくなっていたわね」
シアには感謝しなければ。そう私は溜息を吐いた。
彼の子供が居てくれて本当に良かった。腹を撫でながら私は言う。
「レイモンドは、本当にいつもいつも、真実の愛ばかり追って……私はいつも謝られてばかりで」
「奥様」
「いつも後で謝れば私が許すって思っているのね、いいわ、許してあげるわ、だから……」
これも自殺ごっこだって、そう言って起きてきなさいよ。
私はゆっくりと膝から崩れ落ちた。
けれど、そうなる筈がないことを私は誰よりも知っていた。
そして私は妊婦のまま未亡人となった。
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