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9話 義父からの命令
顔面を蒼白にしてやってきた義父は息子の遺書に一度だけ目を通しすぐに破り捨ててしまった。
その後、レイモンドの寝室に置いたままだったカリーナの遺体を使用人に怒鳴り散らし移動させた。
号泣しながら息子の亡骸に触れようとして、危険だからと執事のグレイグに止められ唇を噛みしめる姿を私は見ていた。
義父のこのように取り乱す姿を私は初めて見た。いつだってこちらを見る目は冷たく侮蔑に満ちていた。
まだ若い息子に先立たれたのだ。泣きたくもなるだろう。いい気味だとは思わなかった。
ただ、何故妻として愛人のカリーナを追い出さなかったのかと私を責め始めた時に
「彼の恋を遮らないという理由で私を配偶者に選んだのはお義父様でしょう」とだけ返した。
大体、私はカリーナを野放しにしていた訳ではない。話し合いの場だって設けた。
その事は夫の遺書にも書いてあるし執事のグレイグだって知っている。
ただ彼女は私の言葉に全く納得はせず、レイモンドもそんな彼女を追い出そうとまではしなかった。
それはカリーナを心の底から愛していたからなのだろう。
殺されてから真実の愛に目覚められても、伯爵夫人になりたがっていた彼女は喜ばない気がするが。
二人の死体を放置して義父と言い争いをする気はない。私は服越しに自らの腹部を撫でた。
「……今私のお腹の中には夫の子供が宿っております」
この子は、殺人者の子供と呼ばれることになるのでしょうか。そう静かに問いかける。
義父は、一瞬目を見開きすぐにそのような事にはさせんと大声を上げた。
「後は全部儂がやる。貴様はレイモンドの子を無事産み落とすことだけ考えろ」
吐き捨てるように言われて私はかしこまりましたと答える。命じられなくてもそのつもりだった。
産むだけで終わりではない。産み落とした後だって私は全力で子供を守る。
その為になら獣にだってなるし悪魔に魂だって売るだろう。
もし夫にそういう気持ちが少しでもあったなら結果は違っていただろう。義父にそう告げようとして、やっぱり止めた。
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