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砂漠の狼
アル・サドンでは部隊長を中心にした編隊を組んでミッションを行う。
作戦によっては3分の1が帰らないこともある。
だからメンバーは常に入れ替わるのだ。
アリーは地獄の激戦区を勝ち抜いてきたエースパイロットとして、尊敬と畏怖を集めている。
アイアンイーグルに乗り込んだラルフとゼツは、ナセルを隊長としてダイヤモンド編隊を組んだ。
「ナセルのバーナー炎で前が見えないな。
命預けますってとこか ───」
「この空域でダイヤモンド編隊を組めるのは、精鋭部隊ならではだぞ。
昨日のアリ―がナンバー1、左のケイ・ホワイト大尉がナンバー2だそうだ」
夜急襲してきた敵の本拠地を突き止め、追撃する作戦が展開される。
「ナセル指令、自分たちはまだ日が浅いです。
なぜこの作戦に ───」
そして先頭をきって司令官が上がってはリスクが大きすぎる。
「理由は昨日言った通りだ。
私は自分の眼で確かめる主義でな。
君たちを一騎当千の強者と見て作戦に加えたのだ」
「恐れ入ります」
「10時の方向、お客さんですぜ」
ホワイトの甲高い声が響く。
「各自奮闘せよ。
ブレイク!」
4方へ分かれていく。
操縦桿を手前に引き、垂直に近い姿勢を取る。
「なぜ上にあがるんだ」
同時に加速Gが身体をシートに押し付ける。
「敵は20機ほどいる。
乱戦になれば有利な態勢を取れるかわからないだろう。
だからあらかじめ有利な上から被せるのさ。
昨日の要領でミサイルで6機、確実に仕留めてくれ」
まっすぐに進むナセルが、ドッグファイトに入った。
「穢れた血で砂漠を汚すのは不本意なれど ───
せめてアラーの懐で清めたまえ」
一瞬失速した機体がひっくり返って戻ってくる。
そしてバルカン砲が発射された。
エンジンをブチ抜いた機体が炎に包まれ、煙を吐いて落ちていく。
反転して下降し始めた機体から、ゼツはしっかりと目に焼き付けた。
「なんだ、今の動きは ───」
「敵さんからすれば、相手が悪かったな。
指令は怪物だ。
俺も、見せ場を作るとするか」
ラルフはバーナーに活を入れた。
機体から降りた5人は、各自の健闘を称えた。
「ラルフ、ポジション取りが流石だったな。
太陽を背にしたのか」
ホワイトが肩を叩く。
「うむ。
全機撃墜 ───
あとは地上部隊に任せよう」
ナセルは満足そうに戻って行った。
「なあ、ラルフ。
ガラクはどうしているだろうな ───」
ゼツは空を仰いだ。
「浮かない顔だな。
俺は、心配してない。
予定は狂ったが、俺たちは死んだも同然に消えたのだからな」
ゼツは本気で死ぬつもりだった。
だが、ラルフは殺せなかった。
生き残ってみると、無性に娘が気にかかった。
「死のうとした人間が、心配するのは変だな ───」
今日も死線を越えて生き残ってしまった。
「おうい!」
ハーティ爺さんが伝票を持ってやってきた。
「例の手紙は渡してきたぞ」
封筒をを手に押し付けると、
「こいつを読んでみな」
レックスからの返事だった。
了
この物語はフィクションです
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