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本当の自分
ガラクは花の都パリにいた。
故郷を捨てた日に辿った道を、TGVで遡り安宿に落ち着いていた。
レックスも、両親も凄まじい過去を持つ。
ガラクは皆に守られて生きてきた。
だが20歳になり、今度は自分が守る番である。
レックスは惜しみなく戦士としての技術と心をガラクに託した。
老い先短いから帰ってくるなと念を押していたが、両親の消息がつかめたら戻るつもりだった。
部屋は細長い木製ベッドがあるだけだった。
シャワーとトイレは部屋についている。
安宿にはどんな人間がいるかわからないし、極力外に出ないようにしていた。
殺し屋という十字架を背負った母親。
負の遺産がこれからの生活にのしかかってくる。
もう堅気の生活など望めないだろう。
幸いにも、自分には親譲りの戦闘の才能がある。
それを頼りに生きていくしかなさそうだった。
「はあ ───」
大きなため息とともに、薄っぺらなベッドに転がった。
横にはホルスターに収まった「ベレッタPX4 ストーム サブコンパクト」が静かに眠っている。
一度だけこいつをぶっ放して、暴漢の頭を吹っ飛ばした。
死の恐怖と怒りが入り交じった静寂の中、身体が勝手に反応したのだった。
人殺しなど好む性格ではないはずだったが、いざとなれば躊躇いがなかった。
両手を頭の後ろで組み、ゴロリと壁に向かって転がる。
眼には涙が伝っていた。
「君には天性の才能がある。
ゼツが見たら驚くだろうな」
笑顔でレックスが言うのだった。
人殺しの才能 ───
必死に運命を手繰り寄せ、見失わないように銃口を正確に向けた。
エアーガンの引き金を引くと、すべての物が跳ね上がり意のままに操ることができた。
とっさに床を這い、転がり、充分な態勢がとれなくても撃った弾は吸い込まれるように的を鳴らした。
「自分の身体に、悪魔が棲んでいた ───」
戦いのサラブレッド。
そして常軌を逸した精神力。
自分はいつも冷めているのだと思っていた。
心にいつも余裕があって、穏やかなのだと思っていた。
眼に映ったものは必ず捉え、脳から指先へ瞬時に引き金を引く指令が下る。
並の人間ではない。
生まれたときから、魂に刻み込まれていたのである。
今はこの強さが重荷に感じた。
「できることなら、平和な暮らしを取り戻したい ───」
近頃は寝床で毎晩呟くのだった。
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