戦士たちのレクイエム

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戦士たちのレクイエム

 夜中1時。  静まり返った基地に警報が鳴り響く。  続いてサイレンがけたたましく鳴り、サーチライトが四方を照らしだした。  跳ね起きたラルフは戦闘服を3秒で身につけ、荒々しくヘルメットを壁からひったくる。  ドアを突き飛ばし、走りながらファスナーを閉じ格納庫へ滑り込んだ。 「回せ!!!」  砂漠の夜は冷え込む。  ジェットエンジンを瞬時に目覚めさせるため、ケロシン(灯油)を流し込みタービンが火を噴く。  エンジンの寿命が縮むが命には代えられない。 「オーバーホール(分解整備)したばかりの機体だ!  俺が先に出る!」  ラルフはコックピットに飛び乗ると、後ろに気配を感じた。 「はあい。  夫婦一緒に地獄散歩と行こうじゃないか」  ゼツが手を振っていた。 「ふざけてる場合じゃない!  エマージェンシーだ」 「離陸で死にゃあしないだろう。  思い切りやって」 「ゲロ吐くなよ!」  操縦桿を握ったラルフは、一瞬心躍った。  戦士の魂は燃え(たぎ)っていた。 「コントロール!  発進準備はできている。  周りの連中がモタモタしているんなら出る!!!」  ラルフは一度火がつくと止まらない(たち)だった。  どんな環境にも瞬時に適応し、最適な行動を取れる。  戦場では生死にかかわる資質である。 「おい!  今、キラッて光ったぞ!  10時の方向」  ゼツの一言で脳の安全装置が吹っ飛んだ。  ジェットエンジンにフルスロットルをかける。  信じられないGがかかり、顔が歪むほどだった。 「オラオラ!!!  どかねえと踏みつぶすぞ!」  蛇行しながら滑走路の障害物を(かわ)し離陸していった ─── 「ひええ……  飛んでったよ……」  管制室にため息が起こった。  離陸速度は時速500キロメートルである。  すぐさま加速して時速1000キロの音速飛行に移らなくてはドッグファイトできない。  戦闘中に失速したら七面鳥撃ちになるからである。  一瞬の躊躇(ためら)いが死につながる。  Gにビビったら死ぬ。  目前の敵の攻撃に当たればもちろん死ぬ。  そして逃げれば銃殺である。 「うおおおお!  勝つか死ぬか!  お前らも選べ」  カッと両眼を見開き、機影を捉えた。 「うひょお!  ノッテきたねえ。  大好きだぜ」 「スパローをぶっ放せ!」 「オーライ!」  ゼツが発射ボタンを続けざまに押した。  照準の中心に機影を捉えている。  すれ違いざまに4機が弾け飛んだ。  旋回し態勢を整える。  速度をまったく落とさないから、凄まじい横Gが顔を引き剥がす。 「後は機銃でやる!  すれ違いざまはド迫力だぜ!  チビるなよ」  時速1000キロがすれ違うのだから、肉眼では追えない速度に達する。  ゼツは初めてコックピットから見る戦闘に興奮していた。  脳から出たアドレナリンが、周囲をスローモーションに変えていた。  ギリギリの射程距離を見切っているラルフは、100分の1秒の精度で敵を打ち抜いた。 「おお!  すげえ!  銃撃戦よりシビレるじゃないか」  計6機を離陸と同時に撃ち落とし、残り4機は敗走した。  敵機が消えると、空に静寂が戻った。  バーナー炎が尾を引き、轟音を響かせるばかりである。  砂漠が銀の絨毯(じゅうたん)のように煌めいていた。  ゼツの操縦に切り替え、シートにもたれた。 「コントロール。  こちらゼツ。  帰投する。  グライドパスに誘導してくれ ───」  逃げ帰ったパイロットは口々に言った ─── 「悪魔だ ───  一瞬で6機飲み込む悪魔が棲んでいる」  初めての交戦で、アイアンイーグルの伝説をアル・サドン基地に打ち立てたのだった。
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