戦士の魂

1/1
前へ
/7ページ
次へ

戦士の魂

 計器類を睨みつけ、操縦桿をほんの少し動かしながら冷汗をかく。 「高度を少しずつ落としながら速度を落とす。  滑走路を正面に捉えたら角度をチェックして ───」  機体のバランスが固定され、基地を視界の中心に捉えた。 「よし。  グライドパスに乗せたな。  これならすぐに実戦投入できるぞ」  タッチダウンするとエアブレーキを立てる。  一連の動作を調和させる技術が必要になる。  戦闘機などほとんど乗ったことがないゼツだったが、すぐに適応するところは流石(さすが)だった。 「ふう、寿命が縮むぜ」  ヘルメットを取ると、仲間たちが拍手で迎えた。 「よお、撃墜王!  今夜のエースはルーキーかよ」 「てか、1機で10機蹴散らすか、普通」  パイロットスーツ姿で群がる中から、進み出た者がいた。 「少尉殿。  華々しいデビューですな」  斜めに構えてから、ラルフを見上げるようにした。  握手を求められて掴んだ右手は興奮で震えたままである。 「ファイズ・ハーン・アリ―大尉だ。  ラルフ・ノエル・オリベール、そしてゼツ。  地獄の激戦区へようこそ。  ナセル指令がお呼びだ。  一緒に行こう」  3人は群衆をかき分けて管制塔へと向かった。 「あの、勝手に出撃して、何かお(とが)めがあるのかな」  落ち着きを取り戻したラルフの顔に、不安の色が浮かんだ。  外は砂まみれのコンクリート造りである。  基地の入り口には2重のドアがあって、砂を防いでいる。  入れば窓が少なくて、昼間でも電灯が点いている。  長い廊下がぐるりと取り囲み、兵士たちの小部屋が区切られている。  鉄板を仕込んだ壁は、殺風景だった。  砂嵐が起こると、外の滑走路が埋もれるほどになる。  だから、兵隊たちも砂下ろしに駆り出されることもあるのだ。  出撃の合間にさまざまな仕事が待っているようだった。 「ふふふ。  俺が決めることじゃないが、ナセルという男はただの軍人ではない。  規律を乱したわけではあるまい。  心配するな」  管制室に入ると、ナセル指令が管制官に指示を出していた。 「ああ、ラルフとゼツだったな。  忘れられない名になりそうだ。  こちらのアリ―は、うちのエースだが過去の話になってしまったな。  明日は私も出る。  お手並みを是非見せてくれ」  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加