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夕暮れの森は薄暗く、打ち捨てられた廃墟のように不気味だった。懐中電灯が照らすのは蓊鬱たる森、地面を覆うのは倒木や瓦礫の山、手付かずの山は荒れ果て、人々の記憶や地図からも忘れられようとしていた。
樹は中腹の谷間に辿り着いた。辺りは暗く、手にした電灯が朽ちた大木や枯葉を照らしてた。樹はシャベルで穴を掘り始めた。一メートルほど掘り進めた所で、荷物の中から袋を出し、穴の上でそれをひっくり返した。
中から落ちてきたのは人骨だった。割れた骸骨の二つの空洞が、恨めしそうに樹を見つめていた。
あのアパートで声を掛けたのは、金で雇ったホームレスだった。蛭川と同じ年齢、背格好の人物を選び、黒子を付け、台本通りの台詞を言わせていた。全ては、樹が仕組んだ事だった。
樹は穴に土を掛けていく。一掻きする度に骨は見えなくなっていく。まるで、蛭川という人間など存在しなかったかのように。
祐輔と梢には未来を生きて欲しかった。けれども、あの過去が何処まで追いかけてきて彼等を縛り付けた。希望も、自由もなく。なら、あの過去を最初から無かった事にするしかなかった。
樹は穴を埋め、その上をシャベルで均した。彼等は仲間だった。今も昔も、施設で誓った友情は永遠だった。
この秘密を道連れに生きていく。真実を葬り去るのだ。
この静寂の森のなかに。
完
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