私の瞳は決して貴方を映さない。

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 今日もまた、貴方は私の事をじっと見つめる。私はと言えば、少しばかり熱を帯びた顔をしてはいるものの、貴方を見つめ返す事はない……どれだけ距離が近付いても、目と鼻の先に息遣いを感じていても―――。  私はご主人様の求めに応じてその時々の命令を忠実に遂行する。ある時は貞淑なロングメイドの娘に、またある時は蠱惑的なオンナへと姿を変える……主君の望むままに。それが私の生きがいであり、存在理由だ。いつ何時命じられても良い様に、目を閉じて部屋の隅に佇む。  私は夢を見ない。正確には見る事ができない。恐らく夢だったであろう残滓を垣間見る事はあっても、内容は断片的で覚えていない。悲しいとも虚しいと思ったりしない。己に課された使命を果たすことさえできればそれでいい。  物音ひとつしない手狭な部屋にやつれ顔で帰って来た我が主。糸の切れたマリオネットの様に力なく私の前に腰を下ろすと、真っすぐな瞳で従順な所有物へ命じる―――斯くあれかしと。  あぁ、お待ちしておりましたマイマスター。さぁご覧に入れましょう、私めのこの姿、どうか心行くまでご堪能くださいませ。 ――― ―― ―  「―――本日のニュースは以上です。この後も引き続き当チャンネルを―――」  (落ち着いたメロディからアップテンポのBGMへ切り替わる)  「あんたなんて、全然好きなんじゃないんだからねっ!!」  (ヒロインによるタイトルコールの後にテロップ表示)  私は『viella』――― 国産メーカーが誇る最新鋭の大型テレビ。
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