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「出世払いで、支払います。高校には行かせてください」
「そうだな。もし時給千円のフルタイムのバイトをやってれば額面月15万は稼げるはずだから、こっちが受け取る金額がそれを下回ったときは年利15パーの借金として扱う。学費と生活費は自費だ。もし1ヶ月でも家に金を入れきれねぇ月があったら、即座に追い出すからな」
「わかりました」
わたしは今になって実感した。もう両親は、この世から居なくなってしまったんだと。
「バイト先も決まってねぇのに学校の準備たぁどういう了見だテメェ?」
部屋の隅にゴミとともに押し固められた制服やカバンを取り出し明日に備え整えていたら、叔父さんに胸ぐらを掴まれた。
「必ずバイトは見つけます。ですから、入学式は行かせてください」
「他人様に平然と借金しやがる奴は、そうやって何か理由を探して返済義務をかわそうとしやがるんだよなァ!」
そもそもこれって、借金じゃなくて恐喝なんじゃないかな。
「自分が昔そうだったからわかるぜ? 借金する奴ってのは、借金の限度額を預貯金残高だと勘違いしてやがる。俺は昔借りれるだけ借りたあと遊んで全て使い果たした。いちど自己破産で借金をチャラにしたあと、女房の家に籍を入れて戸籍を改めたのちに同じコトをした」
わたしは叔父さんほどだらしなくない。
「俺は金貸し屋と違って、弁護士にイモ引かさせられるような娑婆い真似は絶対にしねェんだよ!」
「あんた、こいつ遅れてるからこんな調子なんじゃないの? 頭も、カラダも」
奥さんが舌なめずりをしながらこちらを見てきた。
「だな。いまの世の中、アプリとかですんげー簡単なんだよな? テレクラとか使ってためんどくせー昔と違って。若い女ってのは、穴使わせるだけで簡単に金稼げるのが世の常なのにな」
「ねぇあんた、教えてあげたら? オトナの、す・る・こ・と」
わたしはいつの間にか背後にまわっていた奥さんと叔父さんのふたりがかりで床に向かって押しつけられた。叔父さんがシャツと下着をずり上げて直に触ってきた。
「もっとちゃんと食えよ。食わねぇからこんなちびっとしたもんなんだよ」
「いいじゃない。顔が可愛いわけでもないし、マニアックな客が喜ぶかもよ」
叔父さんはいつの間にか下半身を裸にしていた。わたしは初めて男の大きくなったモノを見た。
「暴れんな。そんな細い足、ただめんどくさいだけだっての」
「嫌がるまえに、ホームレスになるか潔く従うかどっちがいいか考えたら?」
力ずくで拡げられる脚、露わにされた恥ずかしい場所。地獄のような絶望感に襲われた。
「茜、よく見とけ。お姉ちゃん、今から大人になるからな!」
茜が震えながら固まってこちらを見ていた。やめて、見ないで。
「やめてください! 働きますから!!」
圧迫感がみちりみちりと張り詰めさせて破いていく。痛い、怖い、気持ち悪い。
「だから仕事できるカラダにさせてやってんだろ」
ふたりの物欲にまみれた顔がわたしを見下ろす。その光景は、わたしの現状を象徴しているかのようだった。
「ついでだ、覚えとけ。男ってこういうの悦ぶから」
わたしは顔に浴びせられたあと、終わったモノをしゃぶらされた。
「茜! 在学中にオトナになれてなかったらおまえにも同じコトしてやっからな! 嫌だったら、男作って済ませとけ!」
「歩ちゃん。これからは、私たちをお父さんお母さんって呼びなさい。生きるために必要なことをわざわざ教えてあげたんだから」
わたしのなかで、全く興味の無かったコトが、嫌いなコトに成り果てた。
「すみません、入学式は欠席します。どうしても、今日じゅうにアルバイト先を確保したいんです」
夜が明け、朝になったらわたしは必死でバイトを探した。入学式は、苦渋の決断で休んだ。
行く先々で、「まず学校に慣れてからにしたほうがいいよ」「うちじゃ高校生は厳しいよ」そんな言葉で断られた。
陽が傾いて今日の終わりが見えてきて、せめて面接のアポだけでも取ろうと求人情報誌を取りに行ったコンビニで、いちどは門前払いした店長が話を聞いてくれた。
苦学生するためにすぐにでもバイトを始めたい旨を伝えると、私服で通勤することを条件にわたしを採用してくれた。
「皆さん。ホームルームを始めるまえに、皆さんのクラスメートを紹介します。園田、前に立て」
わたしは苗字を呼ばれて席を立った。
「初めまして、園田歩です。これから一年間よろしくお願いします」
今までと違う苗字を初めて名乗って自己紹介。名乗りたくない苗字を名乗る、自己紹介。この違和感は、いつ慣れることができるだろう。
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