4th Sign : 強欲の白昼夢

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「この場に戸田は?」 「居ないな」  深沢の蹴りがわたしの身体にめり込んだ。それは飛んでくる足が倍に増えたことを意味していた。 「あ〜あ、バレたらどうしよ」 「俺たち何かしたっけ?」 「悪い、何もしてなかった」  深沢の爪先が飛んできた。わたしの股間を貫いた。骨盤じゅうに電気のように痛みが走った。 「いい加減にしてよ! ものすごく痛いんだから!」  腹の底から声を出した。誰も聞く耳持たないけれど、そうせずにはいられなかった。安西はまた、鳩尾めがけ上足底をねじ込んだ。 「わけがわからないこと言うなよ。傷を外から確認できる顔面をひっぱたいたのはおまえだけ。つまり悪いのはお前だけ」  わたしは最後の力を絞って立ちあがった。勇気を出して、ブラウスのボタンをひとつひとつ全て外した。 「これでも何もしていないって言うの?」  わたしはブラウスの前を開いてみせた。内出血した肌を見せた。もう、とぼけないでよね。 「そう……れ!!」  そこにめがけて、助走し勢いをつけた田島のドロップキックが飛んできた。わたしの身体は壁に両足で叩きこまれた。 「田島、それヤバくねーか?」  深沢が田島を言葉で咎める。けどその両眼は笑っていた。 「園田さん、公然わいせつはやめてくれないかな? そういうところだよ、みんなの迷惑だよ」  安西が、わたしに冷たく諭すような目を向けてきた。それと同時に、3本の右足の踵がとめどなく踏みつけてきた。 「お前たち、何をやっとるんだ!」  体育の先生が来てくれた。助けて、平岡先生。 「はいせんせー! みんなで園田をシメしてました!」 「安西???」  田島と深沢が面食らった顔で安西を見ていた。なにを考えているんだろう。 「ナメとんのかお前ら! 退学喰らいたいのか!?」 「そうですね。園田が以前僕の足に自分の足を絡ませて転んだときは平岡先生に注意してもらいましたが、その後関係が悪化しまして。  そんなことが何度も続いていたある日、ヒステリーを起こした園田に顔面を思いきりビンタされました」  まだ言い張るの? その話。今度こそ、釈明してやる。 「本当か? 園田」  わたしは決死の覚悟を決めた。糸を垂らされたカンダタみたいな気分だ。 「顔をはたいたのは本当です。ですが、それは安西くんに急いでいるときに足をかけられて転かされることが何度もあったからです」 「安西! 本当か?」 「デタラメですよ。園田が勝手に足を絡ませて転んだだけです。以前平岡先生にも注意されたはずなのに」 「デタラメはそっちでしょ! いい加減にしてよ!」 「その上で、態度がずっとこんな調子なんですよ」  先生の顔が苛立っている。面倒な事は嫌いだろうけど、わたしを助けて。 「安西。少なくとも、これはやったらいかんだろ。停学は免れないと思えよ」  いまのわたしは動かぬ証拠を持っている。平岡先生、わたしのこの傷を見て。 「それは納得いきませんね。そうだ、警察と教育委員会にも話ししたいです」  先生の顔が慌てふためく。まさか先生も隠蔽を選ぶの? 「いわゆる控訴みたいなものですね。特に警察には、事件と見なしていただいて、徹底的に捜査してもらいたいです」  安西、あなたは実刑だよね? 少なくとも。 「複雑化した現代社会の法律においてもしかしたら僕にも非があり僕も罪に問われるのかもしれませんが、全てを解明し話し合ったあとでなければ制裁は受け入れかねます!」  先生、落ち着いて。安西が罪を裁かれ、それで話は終わってくれるよ。 「……わかった。わかったから落ち着けよな、安西。園田も、服装を直せ。年頃の女の子が人前に服の下の肌を晒しちゃいかんだろ? 皆もう子供じゃないんだから、落ち着いて、穏便にな?」  世の中、結局それなんだね。期待したわたしがバカだったな。バカだったって、思わないといけないんだよね。 「帰ろうぜ、今日はこれぐらいで許してやろう」  安西は深沢と田島に声をかけ、やり遂げた顔で教室を出た。わたしはスマホを取り出して、バイト先に身に起きたことの報告と欠勤の連絡を入れた。  日々の業務で大忙しの店長は、力になってやれないが傷が癒えるまで休んでいいと言ってくれた。  ◇◆◇  夏休み、わたしは夏季補習を全て休んで掛け持ちでバイトを始めた。日中は他のコンビニと日雇い、夕方からはいつものバイト。自宅に居るのが絶対イヤで、予定をバイトで埋め尽くした。 「歩ちゃん、毎日精が出るよね。頑張ってるご褒美にキャンプに連れて行ってあげるよ」 「たまには羽根を伸ばさないと、遊びのない歯車は動かないわよ」  バイトから帰宅した深夜、わたしは叔父さんに呼びとめられた。遊びの多すぎる歯車はまともに噛み合わないだろと、わたしはツッコミたくなった。 「それじゃ、制服に着替えてね。キャンプって、制服で行くものだから」 「あ、茜ちゃんはお留守番ね。これは、毎日頑張ってるお姉ちゃんへのご褒美だから」  叔父さんは茜に千円札を渡した。嫌な予感がする。わたしが外に逃げようとしたら、叔母さんにつかまえられた。 「歩ちゃん、よく考えなさい。住所が無かったら学校に通えないでしょ?」  わたしは渋々制服に着替え、叔父さんの車の後部座席に叔母とともに乗車した。車は山の上にあるダムの駐車場に停まった。
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