12年という月日。

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12年という月日。

(サァァァァァァァ) 薄暗い空気。せんこうの匂い。 雨の音を聞いて思い出すのは、お葬式だった。 私はその時間、ずっとお母さんとお父さんの写真を見ていた。 私の卒園式に来てくれなかった2人はあんな写真になってしまった。 ずっとそう考えていた。 ときどきチーンという高い音が鳴って、誰かのすすりなく声が聞こえた。 「この度は〜」と言う人が私とおばあちゃんの前をたくさん通って行った。 私は涙を流さなかった。 私の代わりかのように空はずっと泣いていた。 家に帰ってドアを開けたらすぐ会えると思っていて、でももう会えないという不安がちらついた。 とにかく私には理解ができなかったのだ。 まだ6歳になってまもない私には…… 「桜の花の蕾が春を感じさせる暖かい季節がやってきました。今日、3月……」 18歳の3月。 あれから12年が経つ。 不安は的中し、お母さんとお父さんはいなかった。 私はおばあちゃんと一緒に暮らすことになった。 おばあちゃんが家にきて、お母さんとお父さんと私の家は、おばあちゃんと私の家になった。 たくさんの思い出が頭の中を駆け巡る。 「卒業します!!」 卒業生代表の人の言葉が終わって、私たちは、卒業の歌を歌うために、ステージに上がった。 「お母さん、お父さん、今まで育ててくれてありがとう。私たちは今、それぞれの道へ旅立ちます。」 全員で声を合わせて言うこの言葉を、私はいえなかった。 隣の親友は、大きな声で言っている。何か一点をずっと見つめているということは親を見つけたのだろう。 その後、何を歌ったのか、自分は歌えたのか、どうやって席に戻ったのか、思い出せなかった。 気づいたら私は親友と写真を撮影していた。 「離れてもずっと一緒だよ!!」 「うん!!」 ハグをして、離れる。顔を見ると、親友は涙でぐしゃぐしゃな顔で笑っていた。 「もぉ、泣き虫なんだからぁ。ちょっと離れるだけだよ〜!!  大好きだよ!!」 (「一生会えなくなるわけじゃないから。」) 言いそうになってやめた。この空気を壊してしまう。 「私も大好きだよ!!絶対また遊ぼ!!」 無言で見つめ合い、笑って、そして親友はお母さんたちの方へ行った。 手を振って別れる。 私は1人で通学路を帰った。 だんだんと早足になり、そして走った。 この先にある海を目指して走った。 「お母さぁ〜ん!!お父さぁ〜ん!!はぁはぁ」 海に着くと同時に叫んだ。 言葉にならない声で叫んで叫んで叫んだ。 手にポツリと雫があたった。 雨かと思い上を向く。 綺麗な太陽が私を照らした。 気づいたら私は泣いていた。 「雨、降ってよ!!」 あの日私の代わりに泣いてくれた空は君の番だよと言わんでもばかりに優しく私を照らしていた。 12年間溜まっていた何かが私から溢れ出した。 その時、私の背中を誰かが優しく触った。 「よく我慢してたね。ごめんね。いなくなっちゃって。大好きだよ。」 「ごめんな、卒園式いけなくて。大きくなったな。」 「「美雨(みう)」」 後ろを振り向く。そこには誰もいなかった。 前を向く。 「私も大好きだよ。」 わたしはうずくまって泣いた。 悲しみは涙へ溶けていった。
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