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断じて私が人に話しかけるのが苦手だからではない。いや、苦手ではあるがこの場合は異例であった。そんなことを頭の中で駄弁っているうちに、相手まであと5歩というところまで来てしまった。私は何も対策を練ることができずに、前方から来た、帽子とマフラーの間の目と合ってしまった。その顔は、顔として必要最低限の成り立ちしか保っていなかった。年老いた男の顔左半分はうすら赤く、蝋を溶かして固めたような、ゴム風船がまとわりついているかのような風貌だった。男は足を速めることなく、そのまま公園を出た。その場にへたりこんだ私は目の前が見えなくなっていた。もうこのままここの公園の肥料にでもなろうかとも思ったが、それでは愉快な事件を1つ作ってしまうなと、それだけは回避せねばと私は重い腰を上げスカートのほこりをぱらぱらとはらった。
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