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「この絵、きれいでしょ。」
そう声をかけてきたのは、丸眼鏡のおじちゃんであった。
「あなたが描いたんですか。」
「いやいやとんでもない。僕は管理を任せられているだけ。」
どうぞ、と渡されたのは森宮氏が描いたであろう鹿の絵が印刷されたポストカードだった。裏を返すと、『森宮糺 日本人 画家』という紹介文が書かれていた。おじちゃんは小声で上を指差しながら、
「本当はね、2階にいるんだけど彼、恥ずかしがり屋で出てこないんだ。」
「もしかして、火傷の人ですか。」
「なんだ会ったのかい。」
「ええ、公園ですれ違いまして。」
すると、おじちゃんは顔を曇らせて、
「明るいやつだったんだけど事故で火傷して、それから人が変わっちまってね。一回筆を折ったんだ。けれどもまた絵をばんばん描いてくれてね。ファンとしては嬉しい限りさ。」
おじちゃんにニコニコが戻ったので私は安心しながら、
「良かったですね。」
上からドドンと物音がしたかと思うと、おじちゃんはアっと言って時計を見た。
「もう閉める時間か……お嬢さん、話に付き合ってくれてありがとうね。」
「いえいえ、楽しかったです。」
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