猫は後ろ歩きが苦手

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「明日もよろしくな、子猫ちゃん(キトゥン)」  上機嫌でそう言うとベモンは俺に興味をなくしたようにその場を後にする。金の事しか考えてないんだろうな。俺は裏口から賭場を出た。報酬はない、今日の飯も特にない。所詮は使われ続ける道具だ。ぐう、と腹が鳴った。そういえば一昨日から食べてないな。  イカサマだろうと叫ぶ客。俺とゲームをした奴は必ずそう叫ぶ。そりゃそうだ、むしろ何でイカサマしないと思うのか。裏社会の賭場なんて店も客も全員グルに決まってる。そこでかっこつけて勝負しようなんて言ってくる上流階級のアホども。紳士淑女の住む世界では正々堂々と戦うことが美徳とされるらしい。それで全財産なくして、満足かなあいつら。俺の知ったこっちゃないが。  孤児として産まれ、スリもイカサマも何でもやって生きてきた。そんな中ベモンが支配するこの地区で捕まって、命がけのゲームをした。あいつの部下を十人抜きした時点で俺はあいつの下につく選択肢を示された。選択肢っていうかそれ以外選べなかったけどな。目の前で部下が負けるたび首をかき切る糞野郎に従う以外、なんかあるかって話だ。    手先が器用な自覚はあったから、賭場が俺の担当だ。カード、サイコロ、ルーレット、ルールを覚えればなんでもできる。店の奴が客の手を後ろから見て俺に伝えるとか初歩のイカサマもあれば、俺が自分で何とかすることもある。  冷たい風が俺の全身を冷やす。今日は特に寒いな、衰弱してるガキは死んじまいそうだ。俺の噂がだんだん貴族たちに伝わり始めたらしく最近はこんなことばかりだ。退屈なあいつらはスリルを求める。それで命取りにならないのは貴族社会だから、というのがわかっていない。命を奪う必要なんてない。あいつらは金がなくなった時点で死んだも同然だ。 「俺もそろそろ死ぬかな」  思わず声に出していた。
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