猫は後ろ歩きが苦手

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 賭場の空気は嫌いだ。煙草の煙、酒の匂い、女の喘ぎ声……それは他所でやれよ。あとゲロや糞やいろいろ垂れ流したひどい臭いもたまにする。俺の人生で一番過ごしている時間が長い場所なのにな。  あちこちから沸き起こる失笑、絶望の表情のまま俺を見る男。そんな馬鹿な、こんな事があるはずない。そればかりぶつぶつ呟いている。 「こいつの勝ちだ、ブレーム。お疲れさん」  俺の横でニヤニヤ笑うベモン。テーブルに並べられた綺麗なストレート勝ちのゲームにブレームと呼ばれた男は俺につかみかかる。 「俺が負けるなんてありえない! このクソガキ! イカサマだ、お前イカサマをしたな!?」  がくがくと揺さぶられるが俺は冷めた気持ちで相手を見つめるだけだ。何も言わずにただ見つめ続けると、それが不気味だったのかブレームはわずかに怯えた表情をした。 「おいおい、言いがかりはよしてくれよ。ここで一番強い奴を出せって言うからわざわざコイツを呼んでやったんだぜ? そしたらまあ、見事な負けっぷりだ。この間なんかの大会に優勝したって腕前はその程度だったってことだ」  ケラケラと笑うベモンに、ついにその場にいる人間が大声で笑い始めた。酔っ払いだから仕方ないにしても声がデケエ、うるせえよ。  いまだに俺の胸倉を離さないブレームに、ガラの悪い屈強な男たちが取り押さえて俺から引き離す。何か喚いているし、一緒に来た護衛みたいな男たちも取り押さえられた。ベモンが近寄って嬉しそうに囁く。 「お前が賭け続けた金、ちゃんと払ってもらうからな? 確か全財産だったなあ?」  俺に負けそうになり賭け金(ベット)を上げ続けた、泣き叫ぶ憐れな男。金を積めば新しいカードがもらえるからだ。もっと手札をくれと喚く男に財産の半分ならいいよ、と俺が言って引かなかった時点でコイツの負けだ。半分で済むわけないのに。
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