雨の日

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 連れられたのは用務員室だった。部屋に入った用務員さんは、私の手を放して奥の方へと入っていった。私は珍しさにあたりをきょろきょろと見渡す。  食器棚や流し台に冷蔵庫、奥に畳があってちょっとしたアパートの一室という感じだった。学校にこんな生活空間があるのは何だか不思議で、色々なところに目を向けていくと扉付近に『叶夜(きょうや)』と書かれた名札がぶら下がっているのが目に入った。この用務員さんの名前だろうか。すると、奥の畳からひょっこり叶夜さんが顔を出した。 「ほい、タオル」 「……ありがとうございます」  叶夜さんから投げられたタオルを受け取って、私はそのタオルを頭に被せた。それを確認した叶夜さんは流し台に向かう。たぶん温かい飲み物の準備をしてくれようとしているのだろう。私はとりあえず貰ったタオルで頭を拭いてみた。けれど、服も下着も靴もびしゃびしゃでさすがにこのタオルだけでは、乾きそうにない。まあでも、もうどうでもいい。 「お前、毎朝祠にいる奴だろ」  湯を沸かしていた叶夜さんが急に私に振り向く。叶夜さんの言葉に私は肩をびくつかせた。 「なんで、知ってるんですか」 「見てたからな。何をそんなに必死に祈ってんのかなって」  驚いてる私をよそに、叶夜さんは笑いながら急須に茶葉を入れていく。  確かに私はこの学校にある縁結びの祠に毎朝祈りに行っていた。けれど、誰にも見られていないことを毎朝確認していたのに、まさか見られてるなんて思わなかった。何故だかいたたまれない気持ちになって、頭に被っていたタオルでぎゅっと顔を覆った。 「じゃあ、わかりますよね。なんで私があそこで一人で泣いていたのか。笑っちゃいますよね」  あれは縁結びの祠だ。毎朝祠に行って祈っていたのを知っていて、それで雨の中泣いている私を見たら、私に何があったのかなんて想像がつくだろう。  恥ずかしい。  あんなに毎日祈ってたのに、結果このざまだ。無意味なことをしていたと、きっと心の中で笑っているに違いない。  けれど叶夜さんの反応は私が思っていた反応じゃなかった。 「泣いてるほど傷ついてる奴に、何を笑うことなんてあるんだよ」  優しい声に顔を上げると、叶夜さんがほいっと言ってカップを渡してきた。反射的に受け取ると、熱くなったカップを通して冷たい指先がじんわりと温かくなる。  また、泣きそうになった。  ズタズタに引き裂かれた心の傷に、この温かさと優しい言葉は染み込みやすい。
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