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流れそうな涙を打ち消すように、私はカップのお茶を一口含んだ。温かい。
それに少し落ち着いてきて、私は口を開いた。
「……フラれたんです。彼氏に」
「へぇ。そりゃまたなんで?」
涙を堪えて震える私の声を気にすることもなく、叶夜さんは流し台に凭れながらお茶を飲む。気遣う様子もない叶夜さんに、逆に私は少し安心して笑った。
「『お前の気持ちは、重い』って、そう言われました」
「重い?」
「はい。私、たぶん嫉妬深いんです。それで……」
自分で言っていて傷つく。木原君とあのマネージャーの間に何かあったなんて、本当に思ったわけじゃない。けれど、抑えることができなかった。私だけが、木原君の特別で一番だと思っていたから。一番である私を、何よりも優先してほしかった。
こういうところが重いって言われたのだろう。本当に、私は馬鹿だ。
雨雲のような暗い雲が私の心をまた覆うとした時、明るい声がその雲を吹き飛ばした。
「すげぇな! 魔法みてぇじゃん!」
「え?」
驚いて顔を上げると、そこには落ち着いた大人のように見えた叶夜さんの姿はなく、子どもみたいにキラキラした目をした叶夜さんがいた。
「気持ちなんてみえねぇもん、どうやって重たくしたんだよ! すっげぇ! 魔法使いなんて初めて見た!」
「え、ええ?」
この人は何を言っているのだろうか。魔法使い?
私は困惑した。すると叶夜さんは、私に近づいてカップごと私の両手を握った。突然男の人に握られて、混乱しながらも男性に慣れていない私の心臓は素直に高く跳ね上がった。ふえっと変な声を出してしまう。
私の声と同時に、叶夜さんはぎゅっと私の手を強く握った。
「なあ、魔法使い! 俺の心も重たくできるのか?」
期待の籠った叶夜さんの目と私の困惑したような目が重なる。叶夜さんの目に映った私は驚いたように目を開いていて、きっとその頬の色は赤く染まっているのだろう。
何なんだ。この人。
かっこいいと思っていた叶夜さんが、私の中で一気に『変な人』に成り下がった瞬間だった。
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