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「あ、木原君だ」
叶夜さんとの衝撃的な出会いを思い出していると、うちわを仰ぎながら校庭の方を見ていたゆうちゃんが、思わずと言った様子で声を上げた。私もつられて校庭に目を向ける。
何やら大学生ぐらいの男性に肩に腕を回され、絡まれていた。耳にピアスを多く開けたチャラそうな人たちだ。その人が何か言っては、木原君は愛想笑いを浮かべて受け流しているようだった。一目見ただけも素行の良くなさそうな人たちに、私は眉を顰めた。
「誰? あれ」
「たぶん男バレのOB。なんか木原君、最近ガラの悪い人とつるんで遊んでるって噂だよ」
ゆうちゃんの発言に、私は驚いて顔を向けた。
「え、でもインターハイもう少しじゃないの?」
「最近練習もサボり気味だって。どうしたんだろうね」
二年生になってから、木原君とはクラスも離れたし、あの日以来なるべく会わないようにしていたから、最近の木原君のことなんて知らなかったけれど、あんなに部活の時間を大事にしていた木原君がサボっているなんて信じられなかった。大会の試合に何度負けても悔しそうに涙を流して、みんなが家に帰る中一人で夜遅くまで自主練していた人だったのに。
心配になってじっと木原君を見ていると、木原君たちに叶夜さんが近づいた。笑顔を浮かべて気軽に話しかけてるけど、たぶん注意してるんだろう。ふーん、ちゃんと仕事してるんだ、なんて生意気に思って眺める。
和やかな雰囲気で話し終え、大学生たちは帰り、木原君は気まずそうにその場を後にした。
双方を見送った叶夜さんがふいに顔を上げる。ばっちりと目が合い、私は思わず顔を机に伏せた。見ていた、ということが本人にバレて、むず痒い。顔を伏せながら、ちらりともう一度叶夜さんに目を向けると、叶夜さんは『おーい! 魔法使い!』と叫んで手を振っている。だからその呼び名で、叫ぶな。
手を振っているのに無視するのも悪いと思って、控えめに手を振る。伏せられた腕の隙間から見えたのは、ニッと嬉しそうに笑う叶夜さん。手を振り返しただけで、そんな弾けた笑顔になるなんて、やっぱり子どもみたいだ。
「ばか」
頬が熱い。きっと夏の日差しのせいだ。
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