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雨の日
最悪だ。今日来なければよかった。
木原君が私を残して帰った後、私はまだ呆然と中庭に佇んでいた。木原君と別れてしまった事実と、さっき自分がしてしまった後悔で、その場から動くことができなかった。
遠慮がちな雨が、梅雨の季節を知らせるように大雨に変わった。弾丸のような雨が私の身体を貫く。このまま潰されて、ぺしゃんこになってしまったらいいのに。
「おい、そこの女子生徒。何してんだ?」
後ろから話しかけられ、私は振り向いた。傘を差す作業服を着た金髪の若い男性がいた。目鼻立ちがはっきりとした端正な顔立ちをしていて、金髪という派手な髪色に似合わず柔らかさがありその秀麗さを際立たせている。私はこの人を知っている。この学校の用務員さんだ。名前も知らないし、話したこともなかったけれど、校庭の掃除や花壇の世話をしているところをよく見かけていて、かっこいいなと思っていた。用務員さんは私と目が合うと小走りで近づき、差していた傘を私の方に差し出した。放っておいてほしいのに、今はその優しさすら煩わしく思ってしまう。
用務員さんは私の異変に気づいてか、顔を覗き込んできた。大人なのに無邪気そうな顔をしている用務員さんが目に入る。
「泣いてんの?」
「……ほっといてください」
「さすがにずぶ濡れの生徒を見過ごすわけにはいかねぇよ。職務怠慢になっちまう」
ほれ、こっちこいと私の手首を掴んで引っ張られる。さっきまで握られた彼の乱暴な手を思い出し、ひゅっと息を呑んだ。振りほどこうと思ったけれど、掴まれた手があまりに温かくて、突き放すことができなかった。
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