最悪な日

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最悪な日

 最悪な日だった。  雨に降られた。  一寸先まで覆い隠すような、激しい雨だった。  滝のように降る雨に打たれながら、校舎の中庭に私はいた。  今日は気合を入れていたのだ。いつもより髪にウェーブをつけてアレンジしたり、流行りの新色のリップをつけて少し化粧だってしてみた。  それなのに、天気というのは無情だった。  ウェーブをあてた髪は顔にべっとりと張り付いて、頑張って動画を見て真似たナチュラルメイクはこの大雨の中ではもう形無しだ。彼氏に少しでも可愛いと思ってほしいと願ったそれらを雨がすべて台無しにした。最悪だ。  本当に、最悪な日だった。  彼氏にフラれた。  雨に濡れたらこの嫌な気持ちと一緒に流れていくだろうかと思い、傘を差さずにいたけれど、そんな一筋の願いを、突然降った気まぐれな雨は叶えようとはしなかった。  雨に打たれ続けた制服は傷ついた私の心にまで嫌に張り付いて、ジュクジュクと痛みと共に染み込んでいく。痛くて、纏わりついて気持ち悪い。  少しでも身体から何かを剥がしたくて、濡れて重くなったカバンを地面に落とした。跳ねた泥と一緒にカバンの中身も飛び散る。朝早く起きて作ったお弁当はぐちゃぐちゃになって放り出され、『優勝祈願』と書かれた手作りの赤いお守りは、雨でどす黒い血みたいな色に変わっていた。 『お前の気持ち、重いんだよ』  不意に最後に言われた彼氏の言葉を思い出した。  ああ、まるでこの重たいカバンのように、私の気持ちも重かったのだろう。重たくて持ちきれなくて、耐え切れなくて。だからぶちまけたんだ。    笑い声のような雨音が私の耳を支配する。身体が冷たくて、とても寒い。  このまま誰にも見つけてもらえず、私は誰の一番にもなれないのだろうか。  雨粒に隠れて一人でいた時、突然温かい手が私の両手を握った。驚いて顔を上げる。  綺麗だった。  視界を覆っていた雨がはじけ飛んで、色を思い出したかのように世界が突然輝きだす。自分の涙なのか、雨粒なのかわからないキラキラとした水滴が空中を彷徨い、私の手を握った彼の、太陽のような金色の髪に反射した。 『すげぇな! 魔法みてぇじゃん!』  そう言って彼は少年のような純粋な瞳で私に笑った。    重いと言われた私の気持ちを、彼は魔法みたいだと言ったのだ。
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