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 約束通り、肇は湊と一緒に帰る。下校する女子生徒から挨拶されながら、湊は愛想良く手を振っていた。 (こうなる事は分かっちゃいたけど……落ち着くまで待つしかねーな)  イライラしながら、肇は湊の隣を歩く。すると、後ろから自分を呼ぶ声がして、振り返った。 「やだ、多賀先輩と普通に仲良いんだね」  声を掛けてきたのはクラスメイトのムードメーカーだ。名前を覚えていないから肇は戸惑っていると、彼女は「うっそ、もう二学期も半ばだよ?」と驚いている。 「石田美紀ね。ね、コレってもしかして小木曽くん?」  そう言って、テンション高く見せられたスマホの画面は、ロンギヌスの女性キャラクターのコスプレだった。 「ば……っ!!」  肇は素早くスマホ画面を手で隠し、彼女の腕を引っ張って湊から離れる。 「あんまりオタバレしてないんだから、公の場でこういう事するなよっ」  声を抑えて言うと、彼女はごめん、と謝った。 「だって、オタク仲間がクラスにいるって思ったらテンション上がっちゃって……」  しかもBLのキャラもやってるじゃん、と石田ははしゃぐ。 「腐男子って貴重だし、連絡先交換しない?」 「ちょっと、近いよ」  横から声がしたかと思ったら、腕を引かれて石田と離れる。湊が無表情でこちらを見ていた。彼のそんな表情は見たことが無かったので、少し怖く感じる。 (ん? 怖い? コイツ怒ってんのか?)  多分だけど、と肇は思った。外だから極力表情に出さないようにしているだけなのかもしれない。 「何だよ、別に話してただけだろ」  すると、湊はその表情のまま石田を見る。すると彼女は何かに気付いた様子で、慌て始めた。 「あ、いや、純粋にオタ話したいだけですっ。決して二人の邪魔をしたい訳じゃあ……」 「そう? じゃあ帰るよ、肇」 「え、ちょっと!」  連絡先を交換しようとしていたのに、湊は肇の腕を引っ張って歩き始める。  肇は石田を見ると、彼女は笑顔で手を振っていた。 「もう……すぐファンを作るんだから」 「はぁっ!?」  油断も隙もない、と湊は言う。それを言うならお前の方だろ、と肇は言うと、俺は選んだ人としか付き合わないの、知ってるでしょと言われ、肇は黙るしかない。 「ホント、嫉妬とかしないと思ってたのに……」  湊は呟く。実際は嫉妬ばかりで嫌だなぁとため息をついていた。  肇は今日の目的を思い出し、昼間に思ったことを話す。 「昼間思ったけど。司に突っかかる理由が、俺には分からん」 「そうだよね……怒らないで聞いてくれる?」  どうやら湊も話す覚悟ができたようだ。受け止める覚悟はあるって言っただろ? と言うと、湊は苦笑してこちらを見た。 「……俺ね、純一の事が好きだったの」 「……え?」 「知っての通り、いま純一は司と付き合ってるけど、付き合うまでは司に何かと張り合ってて」  意外だ、と肇は思った。そして、湊がそういう感情になるって事は、純一の事を本気で好きだったんだろうな、とも。それなら、昼間の純一と湊の反応も頷ける。 「向こうは多分気にもしてないだろうけど。それが余計にムカついて……」  真っ直ぐで、言いたいこと言って、好きな事して、好きな人も手に入れて。湊はハッキリ言葉にしなかったけれど、司の事が羨ましかったのだろう、と肇は思う。  司が肇と似ていると言った意味が分かった。 「性格に難あるくせに……不特定多数にモテる以外は全然勝てないんだから」 「自分で言うか、それ」  肇は笑う。湊も笑った。肇はその表情で、湊の中では昇華してるんだな、と悟る。 「ってか、お前も結構頭良いだろ、勝てないとかどれだけだよ」 「だよね。彼、今まで一点も減点されたことないから」  ずっと満点一位だよ、と言われ、肇はモンスターだな、と苦笑した。 「それに……」  湊は真面目な顔で肇を見る。 「多分肇の事、気に入ってるみたいだし」 「……」  そう言えば純一の家で遊んだ際、気に入った、スカウトしたいと言われた事を思い出した。湊に言っても良いかと聞いたら、好きにしろと言っていたので話してみる。 「……前に、司の親父さんの会社に来ないかって誘われたな。すっかり忘れてたけど」 「え、何それ? 司、既に声を掛けてたとか……どれだけ手が早いの」  でもお父さんの会社って? と聞かれて、湊は知らないのか、と肇は驚いた。 「デザイナーだって。俺の衣装を作る腕を見込んで、来ないかって……」  そう言っているうちに、湊の表情がどんどん無くなっていくのが分かった。何かまずいことを言ったのかな、と思ったらすぐに理由が知れる。 「ああ、そういう事だったのね。俺がセダールを知ってたから言わなかっただけ……やっぱりムカつく」  セダールとはブランド名らしい。どうやら湊は、怒ると表情が無くなるようだ。それはそれで怖いから止めて欲しい。 「司に聞いてみろよ、何で黙ってたのか」  理由無しに湊には教えないって事はないだろう。湊もそこは分かっているようで、そうするよ、と苦笑した。  話していると、また知らない間に肇の家まで来る。集中してしまうと、周りが見えなくなるのは肇の癖だ。 「……寄ってくか?」 「いいの? 前はあんなに嫌がっていたのに……」  今更だ、と肇は家に湊を招き入れる。部屋の汚さを知られてしまった以上、何を隠しても無駄だと開き直った。
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