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「お、肇も一緒に食べるかぁ。ここ静かだろ?」  学校での昼休み、湊に指定された場所に弁当を持っていくと、既に湊たちがそこにいた。  階段に座っていた彼らは、純一と司は上の段にいて、湊の隣が空いた状態だ。  ここに座れと言わんばかりで、肇は少し気まずく思いながら、空いた場所に座ろうとした。 「……なに?」  肇が来てからずっとこちらを見ていた司に、肇は問いかける。彼はいや、と視線を外した。 「落ち着く所に落ち着いたようだな」 「……っ」  何故分かるのだろう、と肇は顔が熱くなった。純一がどういう事? と聞いている。湊は話していないのか。 「ホント、全部分かったような事言うからムカつく」  ボソッと湊が呟いた。その不機嫌な声色にも驚いたけれど、純一はまだ分からないのか、俺にも教えろよ、なんて言っているから、肇はどうしていいか分からない。 (湊と司、実は仲悪い?)  そう肇は思うけれど、湊が珍しく本音を言うので、心配する程のことでは無さそうだ。 「なあ、俺だけのけ者かよ、司、湊」  まだ純一が口を尖らせて言っている。この人は本当に、可愛い人だな、と肇は思った。 「……俺から言うか?」 「自分で言うから良いよ。とりあえず、ご飯食べてからね純一」 「何だよー」  湊はにっこり笑って純一に言うと、純一も渋々お弁当を食べ始めた。 「肇のお弁当は自作?」 「ん? ああ、冷食詰め合わせだけどな」  それは作ったと言って良いのか、と自分でも思うけれど、親の分も肇が作っているので良いだろう。 「良いな、俺の為に作ってよ」 「は? 何言ってんだ、やだね」 「えー?」  俺も手作り弁当食べたい、と言う湊。どういう事だよ、と肇が聞くと、純一は毎日司の手作り弁当を食べているそうだ。 「マジか。よくやるよな」  肇は司を振り返ると、彼は表情も変えずに「趣味だから良いんだ」と言う。趣味なら良いけれど、できるだけ手間を省きたい肇には無理だ。 「よっしゃ! 食べ終わったぞ! 湊、教えて!」  純一は急いで食べたのだろう、弁当箱を片付けながらそう言っている。そんなに聞きたいのか、と肇は内心で苦笑した。 「……純一、ちゃんと味わって食べたか?」  司が聞くと、純一はあからさまに慌てて頷いた。嘘っぽいけれど、咎める気はないようだ、司は「そうか」とだけ言って、自分の弁当を再び食べ始める。 「純一、みんな食べ終わってからね」  湊はそう言って、こころなしかゆっくり食べているように見える。何だコイツ、言う気無いな、と肇はイラッとした。  それなら、と肇は純一の方を向く。一気に緊張し始めたけれど、構うもんか。 「純一、オレと湊、付き合うことになった」 「えっ?」 「ちょっと、肇っ」  隣で湊が慌てている。 「だってお前、言う気無かったろ」 「そんな事は無いけど……」  湊は困った顔をしていた。何故そんな反応をするのか分からないけれど、少なくとも誤魔化すつもりではあったようだ。 「そっか……」  純一が呟いた。声のトーンが下がったので意外で見ると、彼は優しく微笑んでいる。しかし、その顔が泣きそうな顔になる。 「良かったな……本当に」 「……ありがとう」  肇は二人の反応が予想外で戸惑った。何故純一はそんな顔をしているのだろう? 「何で純一が泣きそうなんだよ?」  肇が聞くと、純一はだって、と言葉を続けようとした。 「俺から言った方が良かったな」  司が純一の言葉を遮る。意図的に何かを隠されているのに気付いて、肇はムッとした。 「肇」  司に呼ばれる。何だよ、と不機嫌に返事をすると、彼は怒るでもなく落ち着いた声で言った。 「湊が話すまで、待ってやってくれ」 「あーもう、余計なお世話」  湊はイライラしたように言う。仲が悪いと言うより、湊が一方的に突っかかっている感じがして、それも何故だろうと思った。 「湊、何でそう司に突っかかるんだ?」 「……肇と俺は似ているから」  肇が聞くと、何故か司が答えた。オレが司に似ている? どこが? と湊を見る。 「もう……ちょっと来て」 「えっ? オレまだ弁当食べてるんだけどっ」  湊は自分の弁当を置くと、肇の分も置く。腕を引っ張られ、肇は慌てて湊の後をついて行った。  純一たちがいる階の下の踊り場で、湊は振り返る。 「肇、司とあまり話さないで」  少し怒ったような表情の湊。珍しいと思いながらも、何でそんな事を言われなきゃいけないんだ、とムッとする。 「何でそんな事言われなきゃいけないんだ、付き合うことになったって話した時の雰囲気もそうだけど、あんな含みのある感じを出すなら、最初から話せよ」 「……」  湊は黙った。外面はものすごく良いくせに、こういう時に黙る事は、知っている。 「やっぱり黙るのかよ。ここまで人を連れて来ておいて」  弁当食いっぱぐれるから行くぞ、と足を進めようとしたら、湊に腕を掴まれた。 「……今日、シフト入ってる? 帰りながら話すから、それまで待って」  あと、司とは本当にあまり話さないで、とまた湊は言った。懇願するような彼の顔は初めて見たので、肇は嫉妬かよ、と言ってイライラする。 「嫉妬だよ悪い? 肇の事になると余裕が無くなるから、嫌だ」  怒ったように言われて、肇はドキリとした。何も言えずに俯いていると、抱きしめられる。  人気が無いとはいえ、ここは学校だ。そう言うと、湊は苦笑して離れた。 「バイトは無いから、帰りに話せよ? 話しにくい事なんだろうけど、オレは受け止める覚悟でいるから」 「……そういう所、ホント好きだよ」  肇は少し面倒だと思いながらもそう言うと、湊は「両想いになったのに苦しいばかりだ」とまた苦笑する。 「お前が言いたいこと言わないからだろ。一体何を躊躇っているのか知らんけど」  純一や司の前では遠慮しないじゃないか、と言うと、彼は驚いた顔を見せた。そして何かを考えるように、口元に手を当てる。  肇はその様子に、思った事を口にする。 「自覚なかったとか言うなよ?」 「……ごめん」  肇はため息をついた。湊はポリポリと頭をかく。 「やっぱり、好きな子の前ではカッコつけたいって言うか……情けない姿見せたくないって思うのに、実際逆になってるし。上手くいかないなぁ」  先日抱きしめた時もそう、と湊は言って、肇はその時の状況を思い出して赤面した。 「い、良いんじゃね? その方が人間味あって」  チートな湊が色々悩んでると聞いたら、女子たちは率先して相談に乗りそうだな、と肇は思う。だから、それは自分の前だけにして欲しい。  肇はそう思うけれど、それは言わない事にした。戻るか、と湊を誘うと、彼は頷いて「じゃあ、帰りにね」と微笑んだ。
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