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2時前に卓割れすると、ユキは『スパイク』から徒歩7分の自宅へ帰った。
シャワーを済ませ、冷蔵庫を開けた。ありあわせのもので、酒のつまみを作る。
末期癌の宣告を受けた母をめぐって夫婦喧嘩、離婚したユキは、半年前、実家に戻ってきた。パソコンを使う在宅ワークをしながら母の介護をしていたが、その母も3ヶ月前に亡くなった。父は、ユキが大学生の時にやはり癌で他界している。
キッチンでスマホを見ていると、インターホンが鳴った。タカヒロが、卓掃を済ませてきたようだ。
タカヒロを招じ入れると、ユキは冷蔵庫からビールを出した。乾杯し、作ったものに箸をつける。タカヒロはタバコを喫うので、換気扇はつけたままにしていた。
同級生のタカヒロとは幼馴染で、中学生までは同じ学校だった。麻雀も、その頃にネットで覚えた。高校卒業後、ユキは大学に進学したが、父子家庭のタカヒロは父の経営する『スパイク』を手伝うようになった。当時は、いまと違い繁盛していた。
ユキも何度か『スパイク』には遊びに行った。レートは1000点100円のウマが1000円と3000円、いわゆるピンのワンスリーだ。大学生には少し厳しかったが、鳴き祝儀を採用しているので、手牌に赤がある時は積極的にアガリにむかうなど、自分なりに工夫した。ピンに慣れると、テンゴのフリーではほとんど負けなくなった。
卒業後はフリー雀荘へ行くことはなくなったが、ネット麻雀は続けていた。『雀々娘』というアプリで、ユキはいま7段だ。タカヒロも、一時期はプレイしていたようだ。本気で取り組めば、自分より上だろう。
タカヒロは競技プロにもなったが仕事は少なく、会費を払うのも厳しくなり、父の病死を機に退会し、『スパイク』を継いだ。離婚後、ユキが数年ぶりに『スパイク』に顔を出した時は、かつての繫盛は嘘のように客が減っていた。
裏メンをやらないか、と言われたのは母の四十九日が過ぎた頃だった。裏メンバーは、客として打つ店側の人間だ。裏メンがいれば、客が少なくても卓を立てたり、多ければさらに卓を立てることができる。ようは、人数合わせの要員だ。
時給1100円で、ゲーム代のバックはなし。あまりいい条件ではなかったが、在宅ワーク以外特にやることがなかったユキは、少しでもタカヒロの助けになれば、という思いから承諾した。
当初は普通に打っていたが、客が少ないこともあり利益は上がらず、タカヒロの提案で、不本意ながら『通し』をやるようになった。
2階建ての建物はタカヒロの名義で、1階の雑貨屋からは家賃が入ってくるが、肝心の『スパイク』が赤字だった。持ち家もあったがすでに売り払い、タカヒロはいま、アパートで暮らしている。
「シャワー浴びてくる」
タバコを灰皿で揉み消したタカヒロが、浴室へむかった。ユキはテーブルを片づけ、食器を洗った。
洗い物を済ませると、ユキは歯を磨き、寝室でタカヒロを待った。
しばらくして、タカヒロが寝室に入ってきた。上半身は裸で、腰にタオルを巻いている。
ユキは立ちあがって、タカヒロの首に腕を回した。
中学生の頃、ユキはタカヒロが好きだった。たぶん、タカヒロもユキのことを意識していたと思う。その頃はまだ、二人とも純粋だった。
唇を重ね、舌を絡ませ合った。
タカヒロに対する愛情がないわけではない。しかし、いまこうしているのは、コンビを組んで客から金をむしり取る罪悪感や、親を亡くした喪失感を埋めるためかもしれない。むなしいとは思う。ただ、ひとりはつらい。そうやって、毎晩のように互いを求め合っていた。
ベッドに押し倒された。下腹に、硬いものが当たる。タカヒロがユキのカットソーを捲りあげ、胸に顔を埋めてきた。タカヒロの手は、ユキの下半身にのびてくる。
ユキは考えるのをやめ、タカヒロの頭を抱いた。
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