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人間の熱量というものは、全体量は常に一定なんじゃないかと思う。
私は熱い人間を見ていると、何だか妙に心が冷めていくのを感じる。
相手が熱ければ熱いほど。
「授業でムカデ競争の練習をやるのは今日だけだからね。本番だと思ってやるように!」
太田先生の元気な声が体育館に響く。
みんなで足並み揃えてイチニ、イチニ。
声を揃えて、心を一つに。
突然、田中さんが「きゃあ」という小さい声と共に後ろから倒れかかってくる。そのまま私も夏美ちゃんの背中に抱きつくような形になる。あっという間に私達はバランスを崩し、体育館の床の上にバタバタと倒れ込んでしまった。
足首に結んだ紐が、引っ張られて痛い。
「……ごめんね。ごめんね。私、さっきから転んでばっかで……」
半べそをかきながらそう言う田中さんに、最後尾の渡辺さんがその華奢な肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫。大丈夫」
「私達ならいけるよ!」
「さあ、もう一回」
「いける。いける」
みんなの言葉に、私はのそりと立ち上がる。
「みんな段々テンポが早くなってるよ! このテンポ!」
そう言って渡辺さんはパンパンと手を叩いてみせる。
「みんな声出していこう!」
夏美ちゃんは渡辺さんの手拍子に乗せて「イチニ! イチニ!」と声を張り上げた。
ウチのクラスは団結力が強い。
体育祭に向けてみんな気合いが入りまくりだ。
ムカデ競争の練習も、応援合戦の練習も、放課後みんな自主的に集まってやっている。
もちろんクラスには、ちょっとヤンチャな感じの子もおとなしい子もいるけれど、そんなのは関係なく、みんな体育祭に向けて一生懸命だ。
ただ一人を除いては……。
そう、捻くれ者の私は「みんなで心を一つに」とかいうのが苦手だ。
みんな同じ制服を着て、同じ時間に登校し、一斉に同じ方向を向いて同じ授業を受ける。そして同じ時間にお昼ご飯を食べて、同じようなお喋りをして、同じ時間に帰っていく。
毎日のように統一行動を取らされていながら、何故更に一つになりたがるのだろう。
でも、みんなはキラキラとした純粋な笑顔を浮かべていて、本当に楽しそう。
そして、心の汚い私はその中には入っていけないのだ。
みんながキラキラと輝けば輝くほど、自分の中の熱量が下がっていくのがわかる。
でも、私だってせっかくの高校生活を楽しみたい、と思っている。嫌われ者で終わるのは嫌だ。
3年間我慢して周りと足並み揃えて過ごすのか、一匹狼キャラで押し通すのか……。
出方を一歩間違えると、待っているのは地獄だ。
ここは慎重に。自分の立ち位置を見極めないと。
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