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「じゃあ、自主練はこれで終了!」
竹田君はナチュラルブラウンの髪を揺らしながらそう言った。色白の頬を一筋の汗がツーっと伝い落ちていく。
その一重の瞼は切れ長と言えなくもないけれど、竹田君は超イケメン、という程でもない。
でも、クラス委員や応援団員等を率先して引き受ける行動力と、クラス全員のことを常に気遣っていて、陰キャの子達のことも忘れない細やかさで、男女共に人気があるのだ。
私はまた誰かが「残ろう」とか言い出さないうちに、と急いで鞄を手に取った。
「竹田!」
声と共に放られたのは、ペットボトルに入ったスポーツドリンク。
竹田君は軽やかにそれを受け取る。
「これから応援団員の練習だろ?」
「サンキュ」
竹田君は弾けるような笑顔でそう言うと、勢いよくペットボトルを傾けた。
「あー。はっけー」
思わず出た竹田君の訛りのある言葉に、由美ちゃんと瑠夏ちゃんは、教室の隅に行くと足をバタバタさせて嬉しそうな声を上げた。
「ヤバい! ヤバい!」
「マジ可愛い!」
「時々イントネーション違ってるよね」
コソコソと言い合っている二人の言葉をスルーしながら、私は教室の扉を静かに閉めた。
確か、竹田君は中学卒業と共に新潟から東京へ越して来たって言っていた。
本人は標準語を使っているつもりなんだろうけど、時々イントネーションが違っていることがある。
それを女子達は陰でネタにして喜んでいるのだ。
でもそれがバリバリの陰キャだったりしたら、周りの反応も随分と違っていたんだろうな、と思う。
まあ、人間なんてそんなものなんだろうけど。
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