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「聞いて聞いて。酷いの!」
体育祭を翌日に控え、気合いの入りまくった生徒達で盛り上がる教室に、そう叫びながら瑠夏ちゃんが飛び込んで来た。
瑠夏ちゃんが机の上にドサリと放った物を見て、私は心臓が止まりそうになる。
「えっ? 何で酷いの? てるてる坊主じゃん」
由美ちゃんの言葉に、瑠夏ちゃんはティッシュで作られたそれを持ち上げてみせる。
「ほら、これ逆さてるてる坊主だよ! 特別教室棟の階段下にぶら下げてあったの」
二人の周りに生徒達がガヤガヤと集まり始める。
「えー何それ。雨を願ってるってこと?」
「誰がやったの?」
「階段下とか何かインケン」
騒ぎ出す生徒達を尻目に、私は瞳だけを動かして、竹田君の様子を窺った。
色白の頬が更に青白く見える。心なしか、鞄を持つ手も震えているように思えた。
「そう言えば、B組、まとまりなくって、未だに全体練できてないって言ってなかったっけ?」
「……ってことはB組の仕業?」
「B組、自分達が練習してないくせに、A組のこと妬んでたよね?」
「サイテー」
「B組に文句言いに行こう!」
「そうだ。そうだ」
「ま、待ってよ!」
盛り上がる生徒達に竹田君が割って入る。
「ま、まだB組の仕業だと決まった訳じゃないし……。証拠がある訳でもないし……」
止めに入る竹田君の声もいつもより弱々しい。
「竹田は人が良過ぎるんだよ!」
「ガツンと言ってやらなくちゃ!」
B組の仕業だと思い込んでいる彼らには、竹田君の言葉は届かない。
そして、騒ぎ立てる彼らの輪に入っていない生徒が私の他にも、もう一人。
そう、オロオロする竹田君を鋭い眼差しで睨みつけているのは鈴木君だ。
そして鈴木君はそのまま竹田君に近づいていく……。
そう言えば、初めててるてる坊主が吊された日、本校舎に戻った竹田君は鈴木君と何か話していた。鈴木君は竹田君が一人で特別教室棟に行っていたのを知っているのかもしれない。
私は両方の手のひらを、机の上に力強く叩きつけた。
ダンっと響き渡る大きな音に、騒いでいた生徒達が一斉にこちらを振り返る。
「それ、私だよ」
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