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生贄
「村長、ここ最近、ずっと雨が降り続いています!
生贄として巫の血を引くしずく様を捧げるべきではないですか?」
村民が恐る恐る声を上げる。
「バカなことを言うなっ!!」
お父様がダンッと勢い良くテーブルに
拳を打ちつけた。
「しずくはわたしのたった一人の娘だぞ!
生贄になどさせん!」
「しかし……雨を止ませるにはこの方法しか……」
「そうです!畑の野菜はもうダメになっているのです!どうか、お願いします!」
「村にはもう、巫は一人しかおりません。奥様の光里様が亡くなった今、しずく様しかその役目を果たすことが」
ダンッ。
お父様がギロリと村民の顔を睨みつける。
「黙れ」
「しかし」
「黙れと言っているだろう!!」
お父様は立ち上がり叫んだ。
「お父様、村民のみなさんも困っているのです。
そんなに声を荒げないでくださいませ」
わたくしは微笑む。
「しかし、この者達は
お前を龍神への生贄にしろと言っているのだぞ!」
お父様は顔を歪ませる。
「お父様、わたくしは構いません。村民の皆様のためならば喜んで龍神様への生贄となります」
わたくしは笑顔をつくった。
「ありがとうございます!しずく様!!」
「なんとお優しい……」
「感謝します!これで野菜が育てられます!!」
村民達がお礼の言葉を言う。
わたくしはにっこり笑った。
「しずく、ダメだ、そんなことはさせない。
何か他に方法があるはず!!そうだ、わたしが生贄になる。お前でなくてもわたしがなれば!!」
お母様はわたくしが生まれてすぐに
龍神の生贄となった。
大切な人を二度も失うのは辛いだろう。
わたくしはメイドに村民達を下がらせるように言う。
村民たちは不満の言葉を口にしつつも帰っていった。
「お父様」
わたしは優しく声を掛ける。
お父様は涙を流していた。
わたくしはそれをハンカチで拭き、
「わたくしは死ぬつもりはありません。少しの間、家を空けるだけです。」
と微笑んでみせた。
「しずく……だが」
「お父様はこの村の長。一番に考えるべきことは村民のことです。」
厳しい口調で言うと、お父様はうなだれた。
わたくしは表情を緩ませ
「大丈夫です。お父様。きっと帰ってきますから」と
優しい口調で言って、お父様を抱きしめた。
お父様はわたくしを抱きしめ返し、嗚咽を漏らした。
◯◯◯
「あー、疲れたわー」
自室に戻りわたくしは畳の上に座り込んだ。
「お父様の体裁のために生贄になるって言ってんの
分からないのかしら、あの人」
そもそもわたくしが死ぬはずないでしょう。
当日に逃げるわよ。
娘が学校でいじめられていたのに気づけない人が、
よく涙を流せるわね、ホントに呆れるわ。
わたくしは、水沢しずく。
由緒正しい水沢家の一人娘だ。
父は神主と村長を兼任していて、
亡くなったお母様は巫。
生贄になるって言ってホントに
死ぬなんてバカみたい。
みなさん、ビックリしたかしら?
でも、これがわたくしの本性よ。
学校でもこの性格が仇となって
いじめられていたのだ。
もちろん、漫画のようにやられっぱなしではない。
わたくしのポリシーは『やられたらやり返す』
トイレで水をかけられたらその千倍の水をかけるし、
給食にダンゴムシが入っていたら、それを相手の顔面にかけるし、靴箱の靴を隠されれば
相手の靴を薪にくべて焼くわ。
大抵それでいじめは終わる。
いじめた方がいじめられた方よりダメージを受けるのは稀だろう。
担任に言えば自分がいじめをしたとバレるのを恐れているのか、アイツらは何も言わない。
例え、お父様から叱られてもいじめを受けていたと言えば、矛先はいじめっ子に向かう。
我ながらヤンチャすぎると思う。
でも、この性格だから、やっていけるのだ。
明日は生贄の儀式がある。
アイツら
とっとと日取りを決めて……
まぁいいわ。
「さてと、明日の準備をしないとね」
わたくしは立ち上がったのだった。
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