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再会
「驚いたわ、龍神様ってこんな姿なのね」
思わず呟く。
「あぁ。ところでなぜお前は崖から落ちてきた?」
ウスイは無愛想に口を開いた。
わたくしは早川の顔を思い出し、
はらわたが煮えくり返った。
「全ては早川のせいなのよっ!!雨が降り続く村を救うにはわたくしが生贄になる必要があるって
突き落としたのよ!」
「雨が降り続いているだと?」
龍神は怪訝な顔をした。
「なによ、あなたがしたことなんでしょ?
責任とってよね!」
「いや、俺は雨を降らせてなどいない」
ウスイが真面目に言う。
「え?」
拍子抜けだ。
「おそらく、その早川という老婆、呪術師なのだろう。呪術でこの村に雨が降り続く呪いをかけ、
お前が生贄となるように仕組んだのだのではないか?龍神の俺が守護していながら呪いをかけられるとは相当な力の持ち主だな。」
早川が呪術師?
「そんなわけ」
言いかけて、ハッとした。
ウスイが雨を降り続けさせていないのなら、
早川がやったと説明がつく。
だって、なぜあんなにも巫に執着していたの?
生贄なら他の人でも良いはず。
早川は何かわたくしに恨みがあって
村に呪いをかけたんだわ。
「なんて恐ろしい……」
体が震える。
怯えているわけではない。
激しい怒りのせいだ。
「アイツ……許せないっ!」
「……生贄にされた者は皆が悲しむのだが
お前は違うようだな」
ウスイが「面白い」というように微笑む。
「わたくしはちょっとやそっとのことで
悲しまないわ」
わたくしは腕を組んで自慢げに笑みを見せた。
「そうか。良いことだ。ところで名前を聞いていなかった。お前の名は何という。」
「そっけないわね。わたくしの名前は」
「ウスイ様、夕餉の支度ができました」
「あぁ、ヒカリか。入れ」
ヒカリ?
わたくしのお母様の名前だ。
いや、まさか。
お母様が生きているはずがない。
胸がドクンドクンと音を立てた。
正座した状態で障子を開けたのは蝶の柄の着物を着た美しい女性。
顔を上げた女性と目が合った。
「え?」
写真で見たお母様にそっくりだ。
お母様は食事をわたしとウスイに配膳した。
そして「失礼しました」と
正座で襖を閉めようとする。
「待って!!」
お母様が振り向いた。
「お母様……、お母様なんでしょう?」
本当はずっと会いたかった。
お母様は目を見開く。
「もしかして……しずくなの?」
「お母様っ!!」
わたくしはお母様に駆け寄り抱きつく。
「会いたかったわ! ずっと会いたかった」
「わたしも、ずっと会えるのを待っていたわ。
あぁ、しずく、お母様に顔を見せて」
お母様は体を離し、わたくしの頰に手をやる。
「こんなに可愛らしく成長して……」
お母様は涙目でわたくしの顔を見つめた。
「まさか、この娘がお前の子供か?」
ウスイが目を見開いた。
「はい、ウスイ様」
お母様はウスイに向き直った。
「光里から話は聞いている。
まさかお前が光里の娘だったとはな」
ウスイはわたくしの頭から爪先までジロジロ見た。
もう!失礼ね!
「でも、どうしてしずくがここに……?」
不思議そうな顔をするお母様にわたくしはこれまでの経緯を話した。
話を終えるとお母様は青ざめた。
「やっぱり早川が全ての権化だったのね……」
「思い当たる節があるの?」
「早川は、わたしを騙して崖から突き落としたの」
お母様が悔しそうに言った。
「えっ!?」
お母様も??
「わたしを突き落とし早川は言ったの。
『あとは娘と旦那を殺せば、
わたしは村長になれる!』と。」
「クッ……それが狙いだったのね……」
わたくしは唇を噛み締めた。
「お父様が心配だわ、怪我はしてないわよね?」
そう言われて、お父様が心配になってきた。
「大丈夫だ。今のところ寝かされているだけ。
しかし、間も無く殺されてしまうだろう」
これまで黙っていたウスイが口を開いた。
なぜ、そこまで分かるのだろう。
「俺はあちらの世界に行くことができないが魂を人間界に送ることができる。さっきお前たちが話している間に様子を見てきた」
神様ってそんなこともできるの……
そんなことより!
「早く、人間界に帰らないと!!」
わたくしは立ち上がった。
人間界に帰って早川を同じ目に遭わせてやる。
「できないのだ」
ウスイがため息をついた。
「なんで! こっちへは来れたじゃない!
来れたのなら帰ることもできるはずよ!」
「無理よ」
お母様が俯いた。
「なんでよ!お母様は人間界に帰りたくないの?!」
「ここは、神界だ。人間が来れる場所ではない。
お前たちは巫で神聖な力を持つ。だからここに来ることができたのだ」
「なら!」
「だが、早川が人間界に戻れないよう、結界を張っているのだろう。
俺でも人間界に行けるのは魂だけだ。現にお前の母親も、何度も戻ろうとしたが、戻れなかった。」
そんな……
「早川……どこまでも嫌なヤツね」
「ええ、本当に」
お母様も憎々しげに言う。
これからどうすれば良いのだろう。
お父様、どうか無事で。
わたくしはそう祈ることしかできなかった。
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