序章

2/5
前へ
/208ページ
次へ
 ゆっくり起き上がり辺りを見渡すと、丸くて赤い郵便ポストが彼女の視界に入る。車も、珍しいような丸みを帯びた小さな車が目立っている。行き交う人々の服や学生服も、どこか現代と違う気がする。  ……これは一体……?  彼女は状況を理解するのに苦しんだ。  ――あ、あそこに学生帽をかぶって学生服を着た男の人がいる。よし、聞いてみよう。  彼女は立ち上がると服の汚れを払い、彼の元へ近づいて行く。  川べりは肌寒く、草を踏むとカサカサ音を立てる。近くへ行くと彼が音に気付いたのか、こちらを向いた。彼女が声をかけるよりも先に彼は口を開いた。 「僕に何か?」  深めに被られた学生帽を少し上にずらし、帽子のすき間から短い黒髪が見える色白の彼は彼女を見上げる。彼女は少しかがみながら声をかける。 「突然すみません。ここはどこですか?」  彼はかすかに目を見開き、しかし人の良さそうな彼は答えてくれる。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加