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母とのこと1
「……ですよね?菜美子さん」
不意に治弥に名前を呼ばれる。
「え? ごめんなさい。聞いてませんでした」
「利弥兄さんのことですよ。今朝、鉢合わせしたんですよね。びっくりしましたよね?」
「はい。でも、そんなに女性に対してだらしないんですか?」
菜美子が治弥に聞くと、信治が先に答えた。
「ああ……。アイツは昔から1人の女を真剣に好きになれないんですよ」
「昔から?」
「俺と治弥と利弥さんは幼なじみだから……。女は皆おんなじ。ちょっと優しくすれば簡単に好きになるなんて、言ってたんですよ」
げんなりとした顔で信治は言う。
「……何か、寂しいですね。そういう考え方」
「ですよね。僕もそう思います。兄さんは元々はそんな人じゃなかったんです。家の中で色々あって、誤解からどんどんああいう風に……。だから、菜美子さん。おかしな話かもしれないですけど、根は悪い人じゃないんですよ。女性にだらしがない以外は」
「はい。直ると良いですね。利弥さんのそういう所」
「ありがとうございます」と治弥は微笑んだ。
その後、集中して描いているうちに気が付くと数時間たち、夕日が傾き始めている。
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