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夕食を終え、部屋で寛いでいると“コンコン”とノックする音が聞こえる。
「はい」
「菜美子さん、治弥です。少し良いですか?」
「どうぞ」
「兄さんのことで、ちょっと」
治弥は襖を閉め、腰を下ろす。
「はい」
「今日、玄関で結構色々言っていたので、菜美子さんも絵を描く人間として、傷付いていないか心配になったので……」
治弥は本当に優しい。
「はい、大丈夫です。ちょっと、いえ、かなりなんて言い方するんだろうって思いましたけど。でも、夕方話していたみたいに、何か事情があるからなのかな? とも思いました。それより、治弥さんの方こそ大丈夫ですか?」
菜美子の問いにかすかに治弥の顔色が曇る。
――あ、まずかったかな?
「僕は大丈夫ですよ。兄弟ですし、慣れてますから。僕には確かに父さんほどの才能はないかもしれない。でも、出来るだけのことはしたいんです」
いつもの笑顔で言われてしまう。
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