変なホスト義経のブログ

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変なホスト義経のブログ

その夜、僕は塾での義経とクジラの伝説が気になってネットで調べみることにする。  分からないことはネットで検索する。僕たち、ドラエもんがいない21世紀の子供たちの基本だ。 (グーグルが四次元ポケットの代わりだって言われても、納得できないけどねっと) 「義経」「クジラ」と入力したら義経が北海道でクジラを捕まえた伝説がでてきた。義経は平泉から蝦夷(北海道)に渡り更に中国大陸にいってチンギスハーンになったという、アホな伝説もある。旅の途中でクジラと格闘していたとしても何の不思議でもない。でも違和感を感じた。 (塾の先生が言ってたのは屋島の戦いで義経がクジラに助けられた話だ)  今度は「義経、クジラ、屋島」と打ち込んでみた。そしたら一個だけ奇妙なサイトに引っ掛かった。タイトルは 「クジラ好きホスト義経と屋島ちゃん」 6be71f87-033c-4e5b-bd8b-e67225a8fc9f  タイトル下には、ホスト風イケメン男と高学年位の綺麗な猫っぽい目の女の子がクジラの背中で仲良く昼寝しているほのぼのイラスト。男の顔の横に【義経】と書かれ女の子の顔には【屋島ちゃん】という文字。 (はあ、義経がホスト?......屋島ちゃん?) 11月1日  俺、義経はかがんだ姿勢でノートに日記をつける。 「昨日の夜、常連客の予約が全くなかったので、冗談で幹部と見習いの役目を交換してみた。奴等は座持ちが出来ず客たちが白ける。でも俺の見習いの武蔵だけは結構うまくテーブルを盛り上げていたので、そろそろヘルプを卒業させようと思う」 d59508e5-3232-4883-b3f7-11a7b76c3c5f  そこまで書いたところで娘の屋島が、緊張した顔してやってきた。 「義経君来週さあ、授業参観あるんだよ」 「ああ」 「ああ、じゃないよ。来てくれるよね」 「行って大丈夫かな?」 「どういうこと」 「俺金髪だよ。二十四の若造だよ」 「義経君以外私のお父さんはいないんだよ、自信もって」 「へーい、なるべく堅気に見える格好でいくよ」 「お兄さんだって、いっとくし」 「最初からそれをいえ」 「最近、あったかーのに、咳出る」 ケホケホ 「暖かいのに、だろう」 「義経君、言葉にうるさいね」 「俺みたいな若造に育てられたから、しつけがなってないってのは嫌なの」 「死んだママに悪いって思うの?」 「それもある……」  屋島は一年付き合った、あるキャバ嬢の忘れ形見。母親に似て猫みたいな鋭い目と小さい口。好物は刺身。 「なんかシンミリしちゃったね」 「まあね」  もう晩秋で窓の外の石神井公園の銀杏も黄金色。 「ママが交通事故で死んだ時、義経君さっさとママの貯金持って逃げると思ってた」 「まあ最初はそのつもりだったけど」 「鬼、悪魔、フビライハン!」 「探しても、貯金が見つかんなかった」 「げ、それが理由か」  屋島は遠い目をして、飽きれ顔。 「まあ、そんなとこ」 「私が見捨てるには、可愛すぎたとか言えないの」 「三回指名くれたらな」  本当は屋島の行く末が心配だったから。彼女にはろくな引き取り手がいなかった。 「この腐れホストめ」 「そ、そうだ元気がない時はクジラだ。クジラ食いに行くぞ」 「ええええ、違法だし、可哀想じゃん。クジラが」 「早く支度しろ、新宿に出掛けるぞ」 「義経君のクジラきちがいいいい」 11月6日  深夜一時に家に帰るとリビングに明かりがついていて、シチューのいい匂いがした。 「屋島、お前何時だとおもってんだ。早く寝ろ」 「今日授業参観来てくれてありがとう」 「それ言いたくて起きてたのか」 「うん、まあね」 いいから休みな」 「まあまあ、野菜タップリのシチュー作ったから食べてよ。ビールも飲む?」 「ったく。寝ないと成長ホルモンが欠乏するってのに」 「性徴ホルモンだって、やらしい、変態」 「やらしいのはお前」 「パパのことカッコイイって大騒ぎして大変だったよー」 「女児たちを狂わせてもなあ」  そういいながら気分は悪くない。我ながらアホ的低脳ホスト。 「仲良い安部ちゃんなんか、お兄さんのいる時に遊びにきたいって、発情してたよ」  思わず顔をしかめる。 「表現が下品なんだよ」 「ママの影響かも」 何でも悪いことはママのせいにしやがる。俺は無視して出されたシチューにスプーンをつっこむ。 「おお、うまいな」 「でしょう。夕方からトロ火でじっくり煮込んでるから」 「そう言えば銀河鉄道の夜の朗読頑張ってたな」 「まあね、初めて誰かに授業参観来てもらったから気合い入った」 「マジか、あいつ一度も来てないのか」 「うん、あの人屑だっらからね。いわゆるニグレクト系」 「まあ、色色忙しかったんじゃないの」 「男といちゃつくのにね」 「おいおい」7326c291-fecc-4d06-9571-656d1bc894bc この娘は何でもよく知ってる。怖い怖い。 「銀河鉄道って結局あの世と繋がってたんだよね」  屋島はビールをグラスに注ぐ。見事に泡と液体が理想の三対七の比率 。 「そんな難しいことわかんねーよ」 「えええ、結構本読んでるじゃん」 「中卒じゃけんのう、ワシは」 「うそお、マジで。知らんかった」 「で、銀河鉄道がどうした」 「死んだカンパネルラと旅したジョバンニみたいに、私もママと旅できたらなあ」 「屋島さん.......泣かせにかかってる?」 「ごめん、湿っぽくて」 俺は屋島の顔を思わずみつめた。そんなに思いつめてるようでもない。 「ニグレクトママでもたまに恋しいのか」 「まあ、たまーにだけどねえ」 子育ては難しいよなあ。酔わせて騙して金ふんだくって、終わりってわけにいかんから。 0b61c604-969c-4799-ad2e-2c9def0a1986 兎に角一緒に屋島の手作りシチューを食べた。 (メチャクチャうまい) 「次の連休どっかクジラの旨いとこ旅行いくか」 「いきたい、家族旅行も行ったことないよ」 「クジラが地方で食えるとこ調べとくわ」 「法律違反だって」 「お前チキンだな」 黄金色に輝くビールを俺は一気に飲み干した。 「クジラで捕まりたくないっての」 屋島はそれだけ言うと残りのシチューをかきこんで、自分の部屋に戻っていった。 11月30日  俺は家族旅行の経験がない屋島を能登半島に連れていった。 九十九湾という奥能登にある内海の目の前に、その旅館はあった。檜を贅沢につかった高級な雰囲気に圧倒されて、部屋に入っても屋島の口は開っきぱなし。 「パパ、何、これヤバいよ。目の前海っすよ」 政治家が自宅で使用しそうな高級な座椅子に座って興奮からか足をバタバタさせている。 「一泊三万の旅館だ。心して楽しめ、屋島」 「いやあ、ホストってお金あるねえ」 「浪の音が聞こえるな」 「この海は九十九湾っていうんだよ」 俺は屋島を窓際に誘った。 「お、なんだか赤い光が見えるよ」 「漁り火だよ。イカ釣り漁の火だ」 「いさりび、いさりび、かあ。響きがいいね」 「これで学校のやつらに自慢できるか」 「当たり前だっちゅうの。あいつらどうせチェーンのホテルにしか泊まってないし」e987e751-e597-4256-8d68-f3c69c95c4e7 屋島はテーブルに戻って茶菓子を頬張ってモゴモゴさせている。 「風呂入ったらすぐご飯だから、菓子食うな」 「育ち盛りだから大丈夫」 「そうだ、家族旅行の証拠がいるな」 俺は携帯を出して、屋島に渡す。 「旅館の写真取りまくって、クラスの連中にみせびらかすんだね」 「そういうこと。でも、あんまりやりすぎるなよ」 「うん、空気読む読む、エアーリーダー」 「床の間に掛軸と生け花かあ」 お菓子を食った屋島は今度は床の間の生け花と掛軸の前にたって、うっとりと眺めている。 「あああ、綺麗だねえ。パパ大好き。私の神様、七福神、福津漬け」 「大袈裟だよ」 俺はくすぐったくなって、わざとしかめ面する。何てこの娘は喜ばせがいがあるんだろう。猫目をキラキラさながら、床に間の前をスキップしている 「そうだ浴衣に着替えようっと」 ついたての後ろに回って屋島はいそいそと着替えてまた俺の前に現れた。 「九十九湾と船と半月の意匠か」 「いいよね。色っぽい?」 「ホストも惚れるよ」 「帯は腰の下でオッケー?」 「帯が腰の辺り越えたら素人だな」 「素人? 浴衣素人?」 「そういうこと」 「旅館って、なかなか異世界だよね」 「そ、そうか」 「ママなんて私一人残して男と伊豆の高級旅館にしょっちゅういってたなあ」 「伊豆かあ」 「昔ママから言い訳の手紙もらったことあるよ」 「どういう状況でだよ」 「家出してやったの。あんまり旅行が連続したからそれで悪かった帰ってきてくれって」 「ひたすら、謝ってるのか? 素直でいいじゃん」 「ぐちゃぐちゃ言い訳してんの。お前にお父さんを与えたいから必死でデートしてるんだってさ」 「いつもおいてけぼりか」 「当たり前だしょ。シーンとした家で一人カップヌードルすすってたわ」 「俺もその男たちの一人だったかも」 「そうなの。許せない」と、屋島は猫目を見開いておれを睨んだ。 「夕食お持ちしました」  危機一発で中居さんが外から声をかける。 「ほら、飯食って機嫌直せ」  テキパキと中居さんは、テーブルを豪華な料理で埋め尽くしていく。 「刺身は地元産?」 と、俺が聞くと 「そうです。地元の。姫漁港で今日取れたばかりで新鮮ですよ」  渋い藍色の九谷焼きのの器に甘エビや寒ブリの切り身の赤と艶やかなコントラスト。 「うまい、やばい」  中居が来て十秒後には屋島はものすごい勢いで醤油で薄黒くなったご飯を掻き込んでいる。 「このぶつぶつのついた刺身は何ですか」 「能登名物鱈の子付けです」 「なるほど卵がついてるのか」  三十分ほとんど無言で刺身、天婦羅、茶碗蒸し、焼魚、松茸のお吸い物を食べつくしてしめは、奥能登名物シラス丼のお茶漬け。全部平らげた後で屋島は 「満腹満腹」 と、いいながら、座敷の上を大の字で寝転んだ。  90363ab0-6674-411e-8524-e44496164ecd  ちゃんちゃちゃん (なんだこれ、義経とクジラの伝説と全然関係ないじゃん) 僕はパソコンを落として、ベッドに入っても、なんだか寝つけなかった。  こういう小説の形式で 、誰かが義経の秘密を伝えようとしてると、思ったけどそんな妄想も一瞬で睡魔がかき消した。
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